埼玉新聞

 

3歳の娘死亡…車にはねられ、妻も息を引き取る 夫が霊安室で対面…出産時は泣いた妻、指を握り返した娘 「3人で人生始まった」と振り返り、握った手は硬くて冷たく さらに目立とうと誹謗中傷する人、夫の思い

  • 「相手の立場に立ち、思いやりを持つことが未来を守る」と語る松永拓也さん=22日午前、毛呂山町の埼玉平成中学・高校

    「相手の立場に立ち、思いやりを持つことが未来を守る」と語る松永拓也さん=22日午前、毛呂山町の埼玉平成中学・高校

  • 「相手の立場に立ち、思いやりを持つことが未来を守る」と語る松永拓也さん=22日午前、毛呂山町の埼玉平成中学・高校

 東京・池袋の乗用車暴走事故で妻と娘を亡くした松永拓也さん(39)が22日、毛呂山町の埼玉平成中学・高校(山口直也校長)で「交通事故と誹謗(ひぼう)中傷」をテーマに講演した。松永さんは「交通事故も誹謗中傷も、相手の立場に立ち、思いやりを持つことが未来を守る」と生徒に訴えた。

■命の力強さ

 事故は2019年4月、豊島区東池袋4丁目で発生。自転車で横断歩道を渡っていた松永さんの妻真菜さん=当時(31)=と長女莉子さん=同(3)=が、当時87歳の男性元受刑者=服役中に93歳で死亡=の車にはねられ亡くなった。松永さんは「つらさや悲しみを現実的に感じてほしい」と発信する過程で、インターネット上での誹謗中傷の被害に遭った。

 松永さんは生徒約850人を前に、長女莉子さんが誕生した当時を回想。「小さな手で自分の人さし指を握り返してきた時、命の力強さを感じた」。真菜さんも涙を流し、「3人で人生が始まった」と振り返った。

 事故の日。電話に出たところ、「奥さんと娘さんが事故に遭われました」と伝えられた。霊安室で真菜さんと莉子さんに対面した。莉子さんの手を握ると、とても冷たく、硬くなっていた。「生まれてきた時の手を思い出し、あの時に力強さを感じた命が思い浮かんだ」。この世に生きる意味がないと思い、飛び降りようとした。「2人の声が聞こえた気がした。『死なないでほしい』と」

 「交通社会は身近だが、一歩外に出たら命を奪いかねないものだ」と指摘。「他人の命や人生を尊重する思いやりの心を忘れないでほしい。それが自分や他人の人生を守ることになる」と強調した。

■言葉のやいば

 講演では交流サイト(SNS)上での誹謗中傷の被害にも触れた。松永さんは加害者が、動機について「むしゃくしゃした」「目立ちたかった」などと理由を挙げたことを明かし、「全く関係のない他人に言葉のやいばを向けてしまった。自分が苦しいからといって他人を傷つけていいわけではない」と説いた。

 なぜ誹謗中傷をしてしまうのか。松永さんは「想像力が切れてしまったり、正義感が暴走してしまったりする」点を指摘。「正しく生きようとすることは素晴らしいが、『自分こそが正しい』となった時、正義の暴走になってしまう」と話し、「一度発した言葉は取り消せない。絶対に誹謗中傷の加害者にはならないでほしい」と訴えた。

 講演を聞いた高校2年で生徒会長の布谷悠太さん(17)は「自転車で通学しているが、気を付けていても車や歩行者が飛び出してきたり、危険な場面が多い。より注意を払いながら走行したい」。同1年で副会長の森田瑞姫さん(16)は「誹謗中傷は『匿名だから』と安心感を得て書き込んでしまい、人を傷つけてしまう。無責任な発言を改める必要があると考えさせられた」と話した。

 松永さんは22年から講演を開始し、今回で100回目となった。一般社団法人「関東交通犯罪遺族の会」(小沢樹里代表理事)で副代表理事を務めている。講演後の取材に「多くの人が『車を運転する時に気を付けるようになった』などと声をかけてくれる。社会が良くなっていくことにつながっていくと思っている」と述べた。

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