埼玉新聞

 

<大宮立てこもり1週間>事件とネットカフェ巡る現状 私的な空間確保の個室…好意的な意見と防犯上の課題

  • ビルから出てきた男をブルーシートで囲む捜査員ら=18日午後10時48分ごろ、さいたま市大宮区

 さいたま市大宮区のJR大宮駅西口にあるネットカフェで男が女性従業員を人質に立てこもった事件は25日、容疑者の逮捕から1週間が経過した。事件では密閉された防音の個室が犯罪に悪用された。個室は私的な空間が確保されて利用者からは好意的な意見も聞かれるものの、外部から中の様子が確認できず、何が行われているか分からない防犯上の課題も。事件とネットカフェを巡る現状について探った。

 事件は17日午後2時すぎ、さいたま市大宮区桜木町1丁目のネットカフェ「マンボープラス大宮西口店」で発生。客として入店した住居不定、無職の男(40)=監禁致傷容疑で送検=が、20代女性従業員に「物が壊れた」と声を掛けて個室ブース内に誘導。女性が立ち去る際、首をつかんで引き倒し、そのまま室内に監禁した。

 女性が戻って来ないことを不審に思った店員が同日午後4時8分ごろ、110番した。

 個室は鍵付きでドア以外の開口部がなく、防音構造だった。広さは約3平方メートル。店側がマスターキーを使ってドアを開錠しようとしたが、男が細工したとみられ、途中までしか入らなかった。

 県警は容疑者の投降と女性の解放を求めて、専門の捜査員が主にインターホンを通じて説得交渉に当たった。金銭の要求はなかったものの、「ナイフを持っている」「一緒に死ぬ」などの言動があったため、女性の安全を最優先に考えて慎重に対応。18日昼には、ドアのアクリル板に穴を開けて、飲食物を差し入れた。

 事態が急変したのは同日午後8時ごろ。男が「寝る」などと言って応答がなくなったため、県警は突入を決断。寝静まったのを見計らい、ドアの鍵を壊して突入。同日午後10時37分ごろ、身柄を確保した。女性も保護した。

 今回の監禁事件は、狭い「密室」が舞台となり、確保まで約32時間に及んだ。

 ある捜査関係者は、「非常に難しかった。出入り口は一つで防音室のような部屋。のぞけるスペースやガラスもない。容疑者が何を持っているかも分からない。説得を繰り返して、まずは自発的に出すことを考えた」と説明する。

 ネットカフェ運営会社などで作る日本複合カフェ協会(東京都)によると、完全個室は2016年前後から登場。プライベートな空間を確保し、安心してゆったりした時間を過ごしたいとの顧客ニーズを受けて広まった。また、昨年から続く新型コロナウイルス禍で、テレワークやオンライン会議などでの需要拡大もあるという。

 埼玉新聞の記者が利用した同タイプの個室は、ドアにアクリル板が付いているが、中から外が見えず、外から中も見えない。中から廊下の物音は少し聞こえる程度だった。部屋には大きな画面があり、テレビやインターネットを見ることができる。1人用の広さで、2人が座るぐらいの空間は確保できるが、横になると相当窮屈そうだ。

 元埼玉県警捜査1課刑事で一般社団法人スクールポリス理事の佐々木成三さんは、「今回は犯人と被害者が離れる隙間がなく、常に刃物の矛先を向けられる状態。アパートなどの一室で2人が離れていれば、もっと早く突入できたかもしれない」と指摘。「立てこもり事件は現場の状況が全て違い、犯人の傾向も異なる。被害者に大きな負傷がなく、犯人が自殺することもなく、警察官の受傷事故もなかった。三つともそろったことが重要ではないか」とした。

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