埼玉新聞

 

レトロ自販機そろう隠れた名所、オートレストラン・鉄剣タローが31日閉店 3密避けられず再開を断念

  • 店内に並ぶトーストサンドやハンバーガーなどの自販機。昭和を感じさせる機器がそろい、ファンから「聖地」と称された=25日、行田市下忍

  • 32年間の営業に幕を下ろすオートレストラン「鉄剣タロー」=25日、行田市下忍

 レトロな自動販売機と懐かしいゲーム機がそろう隠れた名所として、全国の利用者から親しまれた、行田市下忍のオートレストラン「鉄剣タロー」が31日閉店する。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で4月から臨時休業していたが、安全面から営業再開を断念した。店主の女性(66)は「これまで続けてこられたのは、多くの人が支えてくれたおかげ」と感謝し、32年間の営業に幕を下ろす。

■「御三家」設置

 鉄剣タローは1988年7月、国道17号熊谷バイパス上り線、下忍交差点の近くにオープン。24時間、年中無休で営業しているため、長距離運転手らの憩いの場だった。

 店内には昭和をほうふつとさせる古いゲーム機や自動販売機が並ぶ。マニアの間で「御三家」と称される、うどん、トーストサンド、ハンバーガーのレトロ自販機は開業当初から健在。県内唯一の「御三家」設置店ということもあって近年脚光を浴び、全国から多くの若者が昼夜を問わず集まった。

 店の先行きが危うくなったのは緊急事態宣言が発令された4月7日。店は店内が「3密」に該当する場所であると判断して休業を決めた。これまで無休で営業を続けてきたため、店にはシャッターや入り口をふさぐ門はなく、駐車場に障害物を置いて、利用者に休業中を知らせていた。

■「3密」避けられない

 5月6日に緊急事態宣言が解除されることを予測し、再開へ向けた準備を進めるつもりだったが、宣言が延長されることが決まると、「このまま店を続けてよいのだろうか」と、店主の女性は不安に駆られるようになった。

 周りの飲食店は、消毒液や防菌シートの設置、入場規制など、安全対策のさらなる強化に乗り出していた。しかし店の運営スタイルから同じような措置は難しい。悩んだ末、「これからは新しい生活様式への取り組みが必要不可欠。無人店で24時間営業のうちのスタイルでは、3密を避けるための安全対策は絶対に取れない」と、20日に閉店する意思を固めた。

 休業期間中、「いつ再開しますか」と利用者から問い合わせがあるたびに胸を痛ませていたが、御三家の自販機を世話になった同業者に譲り渡すことで、気持ちに踏ん切りをつけたという。

 「皆さんの安全を考えると、閉店せざるを得ない。長く続けてほしいと言ってくれるお客さんの期待に添えず申し訳ない。これまで続けてこられたのは、多くの人が支えてくれたおかげ」。31日、店頭に感謝の気持ちをつづった手紙を張り付けて、32年間の営業に幕を下ろす。

■70年代の名残

 店の常連で、レトロ自販機に関する本を多数出版している、東京都品川区の越野弘之さん(45)は「鉄剣タローはオートレストランの原点ともいえる場所。何とか残すことはできないのか」と惜しむ。

 越野さんによると、夜に光る紫色のネオン管や、手書きのメッセージが壁一面に張り付けられた店内の雰囲気は、オートレストラン全盛期の1970年代の名残があり、鉄剣タローと同じようなオートレストランはもう全国に見当たらないという。

 行田市の会社員木村昇さん(48)は、店主の女性が1人で店を切り盛りしている現状を知り、3年ほど前から週一回、ボランティアで店内清掃をしてきた。木村さんは「残念な気持ちはあるが、みんなの要望に応え続け、店を守ってくれた店主に感謝したい。この店のおかげで、多くの人たちと出会うことができた」と話していた。

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