157年の伝統×新オフィス…埼玉・川越の川木建設が挑む「場」から始まる“ウェルビーイング経営” 武蔵野大教授が語る、なぜ今経営の在り方に社員の「幸せ」が求められるのか
従業員が心と身体、社会的に満たされた状態で仕事に取り組む環境をつくることで、組織の活性化を図る「ウェルビーイング経営」が脚光を浴びている。創業157年の川木建設(川越市)は、今春「ウェルビーイング」をメインテーマとした新オフィスを完成させた。「長年にわたり大切にしてきたこの理念を、言葉とともに場で伝えていきたい」と鈴木健二社長(61)は力強く語る。
3階建て建物の正面玄関をくぐると、吹き抜けの空間を貫く木のらせん階段が迎える川木建設の新オフィス。階段の左右には各部署の仕事場が配置されており、社内を移動する際は、基本的に階段を使用する。階段は大人2~3人が並べるほどの横幅があり、一段当たりが低く設計されており、擦れ違う社員間には役職や部署を超えて自然とコミュニケーションが生まれる。
オフィスのいたる場所に設置されるオープンソファや、1階のカフェテラスには、気軽な対話や意見交換をしながら業務を進める社員たちの姿も。「自然と人が集まれるスペースがあることで、意見交換の中からアイデアが生まれることが増えた」と同社不動産事業部兼広報担当チーフの夢川泉穂さん。「個人で集中できるスペースも用意してあるので、バランスよく業務に当たれるようになっている」と声を弾ませる。
バブル崩壊後、大手建設会社との差別化を図るため、アフターサービスを充実させようと、本社から1時間以内で向かうことができる現場での仕事に特化し、地元密着を打ち出してきた同社。その後、施工中心だった仕事内容に土地活用や提案も新たに加えた。「当時は不安なことばかりでしたが、試行錯誤しながら新たに始めた事業で最初の注文を頂きました。社員とともに喜びとやりがいを分かち合った約20年前の経験が、社員のやりがいを大切にする『ウェルビーイング経営』の原点になっています」と鈴木社長は振り返る。
ウェルビーイングの研究は、1980年代以降に米国の心理学者から始まり、さまざなま研究が進んできた。「世界的に有名なエビデンスは、『幸福感の高い社員は、そうでない社員と比べて創造性が3倍、生産性が1・3倍』という研究結果」と語るのは、国内研究で第一線をひた走る慶應大学名誉教授で武蔵野大学ウェルビーイング学部ウェルビーイング学科教授の前野隆司氏。一方でこの研究結果が発表されたのは、2012年の世界的なマネジメント誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」であることから、前野教授は「国内で『ウェルビーイング』に注目度が高まりつつあるのは、そのほかの要因もある」と分析する。
「健康経営」「働き方改革」「人的資本経営」。近年の企業に求められる経営の在り方は、多角的でバランスが求められる。「この三つの経営をバランスよくできる考え方としてウェルビーイング経営という考え方が台頭してきたのではないか」と強調。加えて「近年の学生が働きたい会社像というのが、この考え方を持った会社にシフトしてきていることも大きい」と語る。
ウェルビーイング経営の肝は、各社員で異なる「やりがい」をどう実現していくか。「結局のところ必要なのは、仕組みや制度などではなくて、トップと社員のコミュニケーション。だからこそウェルビーイング経営は、地元密着であったり、中小企業の方が相性が良いと思っている。今後は、そういった企業で増えていくのではないか」と前野教授。県内企業の間でも着々とウェルビーイングの輪が広がりを見せそうだ。









