“夢の泥”で頂上目指す 東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授 南鳥島沖でレアアース採取
先月1日、都心から約1900キロ離れた南鳥島(東京都小笠原村)沖の深海6千メートルでレアアース(希土類)を含む泥の採取に内閣府のチームが世界で初めて成功した。高市政権では17の重点投資対象の一つに「マテリアル開発」を掲げており、世界のゲームチェンジャーとなれるか、今後の動向に注目が集まっている。レアアース資源研究の第一人者、東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授=県立浦和高校出身=に聞いた。
―希土類開発の戦略的意義は。
「レアアースは日本のハイテク産業に欠かせないのと同時に、米国では軍事産業に直結する国家安全保障上の戦略物資。だが現在、中国が世界生産の7割を独占し、米国やミャンマーで採掘された鉱石もほとんどが同国で精錬されている」
―なぜ中国が独占できるのか。
「一番の理由は環境負荷に対する意識の違い。陸上のレアアース鉱山の多くに放射性物質のトリウムやウランが含まれ、精錬過程の処理が極めて困難だからだ。また、中国南部で採掘される重レアアースは酸を大量散布して土壌から溶かし出す“環境破壊型手法”が取られており、環境基準の厳しい国ではそもそも事業が成り立たない。結果的に中国がその役割を独占的に引き受ける構図となっている」
―2012年に南鳥島海域で(加藤教授などの研究チームが)新しい希土類資源の存在を発見した。
「私たちは南鳥島のEEZ(排他的経済水域)の1%未満(約2500平方キロメートル)だけでも約1600万トンに及ぶレアアースを確認している。この量は世界第3位の埋蔵量に相当し、濃度も中国産重レアアース鉱石の約20倍。泥に含まれるレアアースを含んだリン酸カルシウム(魚の歯や骨)は物理的な選別(粒径選鉱)で簡単に濃縮できるので経済性も高い。そして何より放射性物質も含まない、まさに“夢の泥”だ」
―世界の勢力図は変わりうるか。
「レアアース泥は地政学的な資源獲得競争の最前線にある。現在、公海上は環境規制を巡る対立で国際ルールの策定が遅れており、EEZ内に世界最高品位の資源を持つ日本は他国に先手を打つ最大のチャンスを迎えている。海外企業も日本との連携を積極的に模索してくるだろう」
―日本が世界で覇権を握るには。
「採掘は海底石油開発で実績を持つ欧米企業の既存技術(エアリフト方式)を活用し、日本は精錬技術や製品化などの得意分野に集中すべきだ。中国は南鳥島のEEZに隣接する公海上で大規模な調査を活発化させており、遅れを取ってはならない」
「その意味で今回のレアアース泥採掘成功は日本の未来にとって研究開発としての意義はあるが、商業化には直結しない。私たち(東京大学研究チーム)は早期商業化や国際連携といった別のアプローチで山頂(世界の覇権)を目指したい」
【かとう・やすひろ】東京大学大学院工学系研究科長・工学部長。県立浦和高校から東京大学理学部地学科に進学。同大学院博士課程(地質学専攻)修了後の1990年4月、日本学術振興会特別研究員。その後、山口大学、米国ハーバード大学、英国ケンブリッジ大学研究員を経て、2000年5月、東京大学大学院工学系研究科助教授(07年から准教授)。12年4月に同研究科教授、23年4月から現職。千葉工業大学次世代海洋資源研究センター所長も兼務する。蕨市出身、64歳。









