埼玉新聞

 

自転車の小4死亡…2台以上の車にはねられたか 運転手が逃げて16年 生きていれば26歳の青年、同級生は親にもなる年齢 命日近くに母やつれるも、諦めず情報・法改正を求める「絶望もあるが、まだ4年ある」

  • 孝徳さんの写真や遺品が飾られた学習机を見つめながら、思いを語る母代里子さん=熊谷市内

    孝徳さんの写真や遺品が飾られた学習机を見つめながら、思いを語る母代里子さん=熊谷市内

  • 孝徳さんの写真や遺品が飾られた学習机を見つめながら、思いを語る母代里子さん=熊谷市内

 熊谷市で小学校4年生の小関孝徳さん=当時(10)=が車両にひき逃げされて死亡した未解決事件は、30日で発生から16年となる。時効成立までは4年。母親の代里子さんは、犯人逮捕を信じて情報提供を呼びかける活動を続けるとともに、死亡ひき逃げ事故の時効撤廃を求めて、法務省に法改正を訴えている。

 事故は2009年9月30日午後6時50分ごろ、熊谷市本石1丁目の市道で起きた。孝徳さんは、書道教室から自転車で帰宅する途中、車両にはねられて死亡。県警は当初、自動車運転過失致死罪で捜査していたが、10年の時効が迫った19年9月、罪名を危険運転致死罪に変更した。時効は10年延長されて20年となったが、残り時間はあと4年。県警は2台以上の車が関与した可能性があるとみて、被疑車両の特定を進めている。

 孝徳さんは生きていれば、26歳の青年になっていたはず。同級生は社会で活躍を始め、そろそろ結婚し、親になってもおかしくない年齢を迎えつつある。代里子さんは「毎年8月ごろから、精神が不安定になってしまう。孝徳と生活した記憶は薄れていないし、悲しみはむしろ深くなっている」と胸の内を吐露。時々、心療内科に通っているが、この時期が巡ってくると、やつれてしまうという。

 今年6月には、本庄市の印刷会社が情報提供活動に協力。A4判のチラシ5万枚、B2判のポスター100枚を無料で印刷した。熊谷市内の各紙新聞販売店も賛同。市内全域のほか、深谷市と行田市の一部にチラシを無償で折り込んだ。熊谷市や群馬県太田市周辺には、日系ブラジル人などの外国籍住民も多い。容疑者が日本人ではない可能性もあるとして、代里子さんは県警の協力を得てポルトガル語版のチラシ製作も進めている。「絶望することもあるけれど、まだ4年ある。残りの時間で何ができるかを考えて過ごしたい」と前を向く。

 もう一つ、代里子さんが力を注いでいるのが、死亡ひき逃げ事故の時効撤廃を求める取り組み。18年から署名活動をスタートさせ、これまでに19、21、23年の3回、法務省に嘆願書と署名を提出してきた。集まった署名は18日現在、計14万8185筆となっている。この秋にも追加分の署名を添えて、4回目の嘆願書を届けるつもりだ。

 国では今年2月、危険運転致死傷罪を巡り、適用要件の見直しに向けた法改正を検討するよう、法制審議会に諮問された。悪質運転による重大事故がなくならないことを受け、飲酒運転や高速度での走行に適用の数値基準を設けることを含めて議論している。だが、ひき逃げそのものは道交法の救護義務違反に当たり、時効は7年で変わらない。代里子さんは「かえって逃げる人が増えてしまうのではないか」と懸念する。

 4回目の嘆願書で、代里子さんは自動車運転処罰法に「発覚免脱逃走罪」を設け、死亡の場合は時効を撤廃するなどの法改正を提案したい意向だ。「交通事故の被害者遺族で、法律の抜本改正を目指して活動している人はあまりいないように思う。逃げることを考えない社会をつくらないといけない」と願う。

 孝徳さんの名前は、「誰かのために徳を積む人になってほしい」との思いを込めて付けた。「今も生きるだけで精いっぱい。交通事故は、遺族の人生も壊してしまう。私たちのような家族が生まれない社会にして、孝徳に『ひき逃げ事故が減ったよ』と報告したい」と代里子さん。犯人の検挙と悲惨な交通事故のない社会を実現するその日まで、母は決して諦めない。

 情報は熊谷署(電話048・526・0110)または、代里子さんのブログ「《未解決》熊谷市小4男児死亡ひき逃げ事件!」(https://ameblo.jp/kosekitakanori/)へ。
 

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