埼玉新聞

 

<月曜放談>東京ないと埼玉成立しないか…千葉とも違う「アニメ玄関口」 全国に送り出す埼玉がすべきこと

  • 角川歴彦氏

■埼玉から全国へ送り出す/KADOKAWA会長・角川氏寄稿

 アニメや映画の舞台を巡る「聖地巡礼」。KADOKAWAの雑誌で連載している『らき☆すた』は、そのブームの先駆けの一つともいえるコンテンツだ。当初、『らき☆すた』の舞台である埼玉県久喜市の神社周辺では「アニメファンに町が荒らされるのでは」と警戒していた。しかし、実際はファンのマナーが非常に良く、買い物もしてくれて、商店街の活性化に寄与しているという。

 この「アニメの力」を強く意識させられたのは、2015年にマレーシアのクアラルンプールで行われた会議に出席した時のことだ。地元出版社のM&Aに成功した記念の日だった。政府関係者とマレーシア人が98%を占めた歓迎パーティーの最後に、皆で合唱した。その曲が『新世紀エヴァンゲリオン』の『残酷な天使のテーゼ』。日本のアニメソングが国境を超えた共通語になっていることを実感した瞬間だった。

 翌朝、高揚感の余韻に浸りながらホテルで食事をとっていてひらめいたのが、四国八十八カ所霊場ならぬ「日本のアニメ聖地88」。日本のアニメ聖地巡りをツアーにして、海外を含む観光客を誘致する仕掛けだ。翌年、KADOKAWAも費用を負担し、協力企業を募って、社団法人アニメツーリズム協会が発足した。

 アニメ聖地は世界のアニメファンの投票で選ばれている。毎年更新し、2020年度版では前年に実施したWEB投票で8万票を集めた。その6割強が中国や台湾などを中心とする海外の投票者だ。

 「聖地88」の0番札所は成田空港。そこから1番のKADOKAWAの「ところざわサクラタウン」に向かい、埼玉県内の『らき☆すた』や『あの花』、全国のアニメ聖地を巡ってもらって、88番の東京都庁で締めくくる。

 実はサクラタウンには、ここを舞台にしたコンテンツはない。作ろうと思えば作れるが、それは二の次、三の次でいいと思っている。ここは「1番札所」であり「ゲートウェイ」。あくまで通過点であり、全国に送り出していく玄関口という位置づけなのだ。

 これは「埼玉県とは何か」というテーマとつながる。埼玉は東京がなければ成立しないというものではない。埼玉は自立していることが重要だと認識した上で、東京都や千葉県とも違う、何をすべきか。足りないものは何か。その答えの一つがゲートウェイであると考えている。

 香港は広大な中国と東南アジアのゲートウェイで成功した。しかし、残念ながら今はその豊かな文化資源が失われようとしている。まずは新しいアジアのゲートウェイであることを行政を含めた県民皆が意識すること。そして、限られた文化資源に戦略的な投資がなされているか、再点検することが必要ではないだろうか。

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