埼玉新聞

 

<ランチ>天国の夫と息子が見守る 前を向く妻「寿庵」継ぎ、鳩ケ谷宿の深い人情が支える 自慢の逸品は

  • 刻みのり、かつお節、ミツバを乗せる寿庵自慢のおろしそば

  • 斉藤久美子さん=川口市鳩ケ谷本町

 江戸城から岩淵で荒川を渡り、川口から鳩ケ谷、岩槻を経て幸手で日光街道に合流する日光御成道。その鳩ケ谷宿は江戸時代から明治にかけて栄えた。面影が今も残る鳩ケ谷本町の御成坂を上りきったところに、斉藤久美子さんが夫と息子の他界後、1人で守る「寿庵」がある。

 1974年、長男晃久さんが浅草の料亭で8年間の修行を終え、鳩ケ谷で父母の寿庵を受け継ぎ、店を大きくしてフグ料理も出す料亭にした。毎朝、築地へ車やバイクで通い、店は繁盛したが、晃久さんは病気で他界。52歳だった。

 2000年に夫四郎さんが他界し、続く悲運に、泣き暮れる久美子さんに友人たちが「いつまでも泣いてちゃ駄目。商売をやれば元気になる」と励ました。

 自慢の逸品がおろしそば(780円)。南信州の下條村の親田地区だけで栽培される辛味ダイコンを使う。晃久さんがバイクで走り回って探し当てた。今年は残念ながら天候不順のため出荷は11月になる。それまでは違うダイコンだが、そばのうまさは変わらない。

 鳩ケ谷宿の深い人情が店を支える。「一声かけると、7、8人が駆け付けてくれる」。鳩ケ谷宿が生んだ江戸時代の思想家、小谷三志(1766~1841年)を尊敬し、歴史への興味も久美子さんを支えている。

 【メモ】寿庵 川口市鳩ケ谷本町2の2の5(電話048・281・4331)。昼食午前11時~午後2時半、夕食午後5時~7時半。定休日は火曜日。ほかにもりそば(530円)、天ざる(980円)。

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