埼玉新聞

 

サイタマノラッパー監督、育ててくれたミニシアターに恩返し コロナで仕事失ったスタッフ結集、映画製作へ

  • 「痛快な思いで映画館を出てもらえる作品になる」と話す入江悠監督=25日午後、東京都豊島区

 深谷市出身の映画監督、入江悠さん(40)は、コロナ禍で苦境に立つ全国のミニシアターを支援しようと、自主映画を9年ぶりに製作する。コロナ禍で仕事を失ったフリーの映画製作者を結集し、完成した作品は全国のミニシアターで巡回上映する。脚本から手掛ける作品のタイトルは「シュシュシュの娘」。自身の原点でもある自主映画で、無名時代に応援してくれたミニシアターへの恩返しを目指す。

■新人監督の登竜門

 入江監督の出世作「SRサイタマノラッパー」(2009年公開)は自主映画。公開時は映画人として無名で、全国の映画館を自ら100カ所以上巡ってPRを行った。舞台あいさつで訪れたミニシアターでは、上映後に観客と質疑応答する時間があった。「自分の至らないところ、秀でているところ、いろいろなことを教わった。ミニシアターに育ててもらった」と振り返る。

 ミニシアターは新人監督たちの飛躍のきっかけとなる“登竜門”。また、マイナーな国内外の作品や、主張の強い“とがった作品”、ドキュメンタリーなど、多様な映画が上映されるのも特徴だ。その一方で、ぎりぎりの経営の所も少なくない。

 4月に新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出され、各地の映画館が休館に追い込まれる中、入江監督の脳裏に真っ先に浮かんだのはミニシアターのこと。「このままでは閉館に追い込まれる所も出てくるのでは」。自身のブログで、各館の寄付の受け付け先を紹介し、支援を呼び掛けた。

 映画ファンからの寄付でミニシアターの多くは一息ついたものの、一度遠のいた客足はなかなか戻らず、経営は依然として厳しいまま。「ミニシアターで上映して盛り上がる作品を作ることが、僕ら製作者にできることなのではないか」。そこで選んだのが自主映画だった。

■出演者公募に2500人

 コロナ禍では多くの映画の製作が中止や延期に追い込まれた。入江監督自身も映画やドラマなど2本の企画がなくなった。また、撮影や衣装、メークなど製作スタッフの多くはフリーランスで、1本の映画ごとに集まっている。しかし、映画製作が中止となり、無収入に陥っているスタッフも多いという。

 今回はこうしたスタッフや俳優に賃金を払い、共に映画を作るのも目的の一つだ。出演者のオーディションを行い、感染防止のためオンラインなどで面談した。出演者は約25人の予定だが、応募者は2500人を超えた。映画から舞台の俳優まで、コロナ禍で表現の場を失くした人が多いという。選考は入江監督1人で行った。応募者の追い込まれている気持ちはよく分かる。「できれば多くの人と一緒にやりたいが、選ぶのに苦労した」

 撮影は9月末~10月末を予定。土地勘があり、コロナ禍でも協力が得やすいことから、「サイタマノラッパー」シリーズでロケを行った県北や群馬、栃木など北関東で行う。主要キャストは事前にPCR検査を行うなど、感染防止対策を取る。

■政治的なテーマも

 「シュシュシュの娘」は、地方都市に住む25歳の女性が主人公。入江監督がこれまで温めていた構想を基に、6月に脚本を一気に書き上げた。文書改ざん問題など最近の政治的なテーマも盛り込み、「商業映画だったら企画書が通らない内容」という。自主映画ならではの"自由な戦い"を展開する。

 製作費は入江監督の自費と、1千万円を目標に募っているクラウドファンディング(CF)で賄う。出資金は500円から。リターン(見返り)には、製作中のスタッフにコーヒーや食事をごちそうできる「奢(おご)ってやるよ券」といったユニークなものも。資金調達だけでなく「応援団をつくっているという感じ」と入江監督。公開は来年秋の予定。「皆がミニシアターに戻ってきて、コロナが終わって、また始まるという感じにしたい」

 CFは10月29日まで、MOTION GALLERYのホームページから。

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