埼玉新聞

 

<新型コロナ>開催危ぶまれる夏の高校野球 やらせてあげたい、でも…指導者や選手、複雑な胸中明かす

  • 静まり返る県営大宮球場=5日、さいたま市大宮区

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて、安倍晋三首相が今月31日まで緊急事態宣言を延長すると発表した翌5日、本来、この日は県営大宮球場で高校野球の春季県大会決勝が行われているはずだった。4月26日に全国高校総体の史上初の中止が決まり、夏の高校野球(埼玉大会は7月10日開幕予定)の開催も危ぶまれている中、今、当事者はどのような思いでいるのか。選手や指導者を追った。

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 6日付の紙面に、球児たちの輝く姿が踊っているはずだった。花咲徳栄、浦和学院などの強豪私学が激突していたのか、冬に力を蓄えた公立校が勝ち上がってきたのか。いずれにしても、球場は多くの野球少年たちやファンで埋まり、外野席も開放。そして響き渡る球音や歓声―。そんな当たり前だった光景が、今春はない。球場はひっそりと静まり返っていた。

 スポーツを取り巻く環境は厳しい。高校野球も例外ではない。休校中で部活動もできない現状。県内のある公立校の監督は主将と無料通信アプリのLINE(ライン)を通じて、連絡を取り合っているというが、「(夏の)大会をやる前提で、前向きな内容の言葉を発信してきたが、インターハイ中止のニュースが流れ、果たして、それ(前向きな言葉)だけでいいのだろうか」と複雑な胸中を明かす。

 「学校が始まるのか、部活の再開はどうなるのか。夏の大会はできるのか。3年生の進路は。先が見えない、未来が見えないのが一番苦しい」

 一方の球児はどう日々を過ごしているのか。この3年生の主将は午前は基本的な筋力トレーニング、午後はスイングやノックの足の運びから捕球、スローイングをイメージしたシャドーなど、自宅で計5時間の自主練習を行う。「今の期間の取り組みが大事。無駄にできない日が続いている。100パーセント、開催される気持ちで準備してます」と力強い。

 ただ、こんな思いもある。「ネットとかを見ていても、高校野球だけどうなんだと出ている。自分の思いと世間の考えが違う部分があって、モヤモヤしています」

 緊急事態宣言が延長され、仮に6月から学校が再開したとしても、同時に部活が通常通り行えるようになる可能性は限りなく低いだろう。

 例年なら冬場の鍛錬の成果を4月の春季大会で試し、新たに出た課題を5、6月の追い込み時期に克服する。しかし最も力が伸びる春以降、満足な練習ができないまま、猛暑の夏を迎え、極限の戦いを強いられるのは酷な話だ。

 前述の監督は「自分たちや家族の命を守ることが今は最優先」と前置きした上で「大会はやらせてあげたい。でも、うちは鍛え上げて力を付けていくチーム。この間のブランクは相当きつい」と言う。

 監督と部員たちの橋渡し役となる主将は「みんなストレスがたまってきちゃって…。できるだけ話して気持ちが入るような言葉を掛けるようにしてます。一緒にやってきた仲間たちと最後まで戦って、勝っても負けても戦い抜いて終わりたい」と願う。

 球児のことを思うと戦わずして引退を迎えるのは悲しいが、開催されるとしても、クリアすべき課題や不安は尽きない。

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