埼玉新聞

 

浦和の街と71年、おでん種販売「増田屋」閉店へ ビル閉鎖で決断、常連客から惜しむ声「寂しい」

  • 「浦和にレッズが来てから街が大きく変わった。皆さんに支えられ、どれも良い思い出ばかり」と話す高畑さん夫妻=さいたま市浦和区

 JR浦和駅西口に程近い、さいたま市浦和区高砂2丁目の「ナカギンザ商店会ビル」が、2020年3月末での閉鎖を決定した。築45年になる建物の老朽化が原因で、ビル1階に軒を連ねる約20店舗も移転か廃業かの選択を迫られている。1948年創業のおでん種販売店「増田屋」は、74年の同ビル完成前からこの地で営む最も古い店。閉鎖を機に来年2月末で店を畳む予定で、常連客から「やめないで」と惜しむ声が上がっている。

■アーケード

 同商店会ビルの前身は48年に誕生した仲銀座商店街。4階建てビル1階部分は全長約70メートルのアーケードで、かつては洋服や食料品など、生活に密着した店が並んでいた。現在は居酒屋やバーなどの飲み屋街となっている。薄暗い路地には各店の看板ネオンが光り、昭和の趣を残す場所となっている。

 「私が18歳で店を手伝い始めた約45年前は買い物客で商店街が連日にぎわっていた」。増田屋2代目の高畑友之さん(63)は当時を懐かしむ。

 高畑さんは創業者で父親の圭助さんの背中を追い、職人の道へ。長年、妻の昌代さん(52)と店を切り盛りしてきた。仕込みは毎日午前7時半から。約40種類のおでん種は全て手作りで、値段も100円前後。客が好みの商品を自ら容器に入れて購入する。人情味あふれる夫妻の接客も多くの人を引きつけている。

■浦和レッズ

 一番の思い出は浦和レッズがリーグ初優勝した2006年。全商品半額の記念セールをしたら、多くのサポーターが詰め掛け、共に喜び合った。6年前から次男の健太さん(24)が後継者として店を手伝い、家族3人で味を守り続けてきた。そんな矢先での閉鎖の一報。新しく店を開くか悩んだが、数千万円単位の設備投資が必要な上、東京・豊洲市場移転に伴う原材料の入手困難もあり、苦渋の決断をした。

 ナカギンザ商店会地権者会の原田耕次会長(67)によると、昨年3月ごろからビルの水道やガス管が老朽し、利用者から不満が挙がったという。同会は10月に地権者19人を集めた会議を開いて、ビル閉鎖が決まった。原田会長は「残したい気持ちもあるが、一番は老朽化が深刻」と話す。取り壊しも含め、今後の具体的な計画は現時点で未定だという。

■寂しさ

 40年来通う川口市の50代主婦は「寒くなると、ここのおでんが無性に食べたくなる。店を畳むと聞いて、本当に本当に寂しい」と惜しむ。

 高畑さん夫妻は「この場所には人生の全てが詰まっているね」と話し、汗と涙の染み付いた店内を寂しそうに見回す。そして「皆さんに育ててもらい、続けられた。今はありがとうの言葉しか見つからない」。

 浦和の街と人々と歩んで今年で71年。感謝を胸に、最後の師走も顧客を温かく迎える。

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