埼玉新聞

 

女性だまされたふり…やっと詐欺師が手にしたのは紙幣ではなく模造紙 銀行すごい機転、警官が取り囲み逮捕

  • 浦和署の橋本昭文署長(中央)から感謝状を受け取った中村彩那さん(左)と沼田有希さん=5月26日、浦和署

    浦和署の橋本昭文署長(中央)から感謝状を受け取った中村彩那さん(左)と沼田有希さん=5月26日、浦和署

  • 浦和署の橋本昭文署長(中央)から感謝状を受け取った中村彩那さん(左)と沼田有希さん=5月26日、浦和署

 抑止から摘発へ。鮮やかな連携で特殊詐欺を撃退だ。埼玉県警浦和署は5月26日、多額の現金を引き出しに来た高齢女性に寄り添い、被害を防いだ武蔵野銀行南浦和支店の女性職員2人に感謝状を贈った。さらに通報を受けた同署が女性と「だまされたふり作戦」を敢行。署独自の“特殊詐欺検挙隊”が現金を取りに来た不審な男を見つけ詐欺未遂容疑での現行犯逮捕に結び付けた。橋本昭文署長は機転を利かせた武銀職員へ謝意を述べた上で、「現行犯逮捕で犯人はぐうの音も出ない。こういう捕まえ方は後の犯罪の抑止につながる」と強調した。

■寄り添い心ほぐす

 感謝状を贈呈された中村彩那さん(24)と沼田有希さん(43)のこまやかな対応が、被害に遭いかけた女性(86)=さいたま市南区=を救った。

 24日午後2時半ごろ、来店した女性が中村さんに「足が悪くてなかなか銀行に行けない。生活費として100万円下ろしたい」と申し出た。中村さんが「もう少し少額でもいいのでは」と伝えても譲らなかった。番号札を手に女性は窓口へ。沼田さんが対面ではなく横に座って聞くと、「医療費に使う」と言っていたのが「孫にあげる。孫が頼れるのは自分しかいない」と徐々に心を開き出したという。

 不審に思い上司に伝え、上司は2人から話を聞いた上で女性を説得し浦和署へ通報した。実際に来店する約1時間半前には女性方に孫を装う男から「バッグをトイレに置き忘れた」「お金が必要」などと電話がかかってきていて、完全に信じきっていた。

 「今後もささいなことを気付けるように話を聞きたい」と中村さん。沼田さんも「お客さまの大切なお金を守れてうれしい」とほほ笑む。対応した同店の武藤裕樹次長(52)によると、武蔵野銀行には高齢者の詐欺被害防止のため65歳以上の来店者が100万円以上を現金で下ろしたいと申し出た際に管理職が対応する決まりがあるという。まさに女性から話を聞き、報告した職員2人の好プレーだった。

■“検挙隊”も負けじと

 話には続きがある。駆け付けた署員はすぐに犯人側が現金を取りに来る旨を知り、女性に「だまされたふり作戦」への協力を依頼した。捜査員が女性方周辺を調べていると、近くで不審な男を発見。車両を少し遠くに止め女性に1人で家に帰ってもらった。

 男は歩き回って様子をうかがっていたが、離れたタイミングで別の捜査員が模造紙幣を持って家の中へ。かかってきた電話に、現金を取りに来るよう仕向け、やって来た男が模造紙幣入りの紙袋を受け取った次の瞬間、複数の捜査員で取り囲み、詐欺未遂容疑で現行犯逮捕した。逮捕された川崎市の男(37)は「やったことは詐欺だと認識していた」と容疑を認めている。

 浦和署管内では昨年1年間の特殊詐欺被害認知件数が102件(前年比48件増)で県下ワースト2位。被害額も2億4749万円に上ることから、特殊詐欺の受け子や出し子の摘発に特化した署独自の“特殊詐欺検挙隊”を4月17日に再編成した。今回、女性方付近で不審な男を発見したのは検挙隊の若手捜査員2人。発足後、初めて受け子の逮捕に結び付いたという。

 本部の捜査2課員が署で実技指導する「集合教養」やパトカーに署員を同乗させ、実際に職務質問をする「同行指導」で知識を蓄え、技能が向上した成果の一端といえる。

 特殊詐欺は家族や親族の絆につけ込む卑劣極まりない犯罪だ。同署刑事課長代理の野村直紀警部は「悪いことをしたら捕まるということを植え付けたい」と実感を込めた。
 

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