埼玉新聞

 

男きょろきょろ…詐欺犯だと見抜いて逮捕 埼玉が詐欺被害減 マスク、スマホ、仕草…犯人か?警官の光る目

  • ターミナル駅周辺を警戒する男性警部補(左)。相棒の捜査員(右)とペアを組んで受け子の摘発に当たる=10月下旬、さいたま市内

 県内で今年9月までに発生した特殊詐欺事件の被害件数が前年同期比で2016年以来の減少に転じたことが、県警のまとめで分かった。17、18年は2年連続で増加。今年は1月が前年より少なく、2~8月の同期比は多かったが増加幅は縮まり、9月で減少した。県警は昨年から徹底した職務質問による高齢者から現金やカードを受け取る「受け子」の摘発を強化しており、1~9月の摘発件数は前年同期より大きく増加。地道な啓発活動と合わせて被害の減少につながったとみている。現場の捜査員も「一人でも多く検挙して被害を減らすのが役割」と意気込んでおり、特殊詐欺一掃に向けて組織一丸で取り組んでいる。

■現場摘発は127人

 県警特殊詐欺対策室によると、今年1~9月に県警が認知した特殊詐欺事件は922件で、前年同期より36件減少。1カ月ごとの前年同期比では、今年1月の1カ月間を除き16年12月以来の減少に転じた。一方、被害者をだました上でキャッシュカードなどをすり替えて盗む「職権盗」の被害は増加しており、改めて注意を呼び掛けている。

 1~9月の特殊詐欺と職権盗を合わせた摘発件数は299件、摘発人数は168人で、前年同期と比べてそれぞれ48件、41人多く、いずれも17年以降で最多だった。このうち職務質問や被害者が協力した「だまされたふり作戦」による現場での摘発は121件、127人で過去最多。役割は受け子120人、見張り役5人、回収役1人、リクルーター1人だった。

■私服捜査員を配置

 県警で特殊詐欺の現場摘発を進める部門は現場対策係と呼ばれ、前身は12年6月、捜査2課内に設置された。14年には特殊詐欺捜査室を新設し体制を強化。今年3月にも増員されており、組織として受け子対策に力を入れる。

 同係で一番の実績を挙げている男性警部補(36)は「振り込め詐欺は高齢者を標的とした悪質な犯罪。一人でも多く検挙したい」と意識する。

 警部補ら同係の捜査員は詐欺の予兆電話(アポ電)が多発している地域の鉄道駅や、受け子が利用しそうなターミナル駅などに配置され、改札や駅付近、現金自動預払機(ATM)周辺で捜査に当たる。ジーンズなどラフな服装をしており、一見して警察官と分からない。

 捜査員は受け子らの特徴を把握し、必要に応じて不審者を追跡する。イヤホンやマスクをしてスマートフォンを操作している者、改札を出て人の流れに乗らず周囲をきょろきょろと見渡している者…。「遠くから来た受け子は大きなリュックサックにスーツなど着替えを詰めている。数時間、喫茶店で時間をつぶした後、慌てた様子でスマホを確認しながらタクシーに乗ったりする者は、受け渡しの現場に行く可能性が高い」と警部補。多くのポイントを見て確信を得た上で声を掛ける。

 「やっていることは単純だが精神的な体力を使う。忍耐力が必要」。警部補は地道な捜査の難しさを実感する。それでも「不審者に職務質問したら、だまし取った現金を持っていたり、追跡で被害者が浮上して未然防止できたり、そういうことに関われるのが一番のやりがい」と話す。

■検挙と抑止両面で

 一方、同対策室によると、今年に入って特殊詐欺の犯行拠点の摘発は4カ所。県警は被害を1件でも減らそうと、今後も拠点やかけ子グループの解明とともに、徹底した職務質問による受け子の摘発を進める方針。合わせて啓発活動など抑止対策にも取り組む。同対策室の増渕健管理官は「特殊詐欺を撲滅するため、組織の総合力を上げて検挙と抑止の両面で、あらゆる対策を講じたい」としている。

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