埼玉新聞

 

県内初、世界かんがい施設遺産に見沼代用水が登録 江戸時代に整備、現在も使われる技術が認められる

  • 市民の憩いの場にもなっている見沼代用水路西縁=4日午後、さいたま市浦和区

  • 見沼代用水のかんがい区域

 農水省は4日、歴史的に価値のある農業用水施設を登録する「世界かんがい施設遺産」の一つに、行田市やさいたま市など埼玉県内17市町を流れる見沼代用水が選ばれたと発表した。江戸時代に整備され、現在も使われている歴史や技術に対する価値が認められた。国際かんがい排水委員会(ICID)がインドネシアで開いた国際執行理事会で登録が決まった。同遺産への登録は県内で初めてで、国内の登録施設は39カ所となった。

 見沼代用水の登録は農林水産組合の見沼代用水土地改良区が申請、県が支援した。申請は今回で2度目。

 見沼代用水は水害防止とコメの収穫向上のために、江戸幕府が紀州(現在の和歌山県)出身の役人、井沢弥惣兵衛為永に命じ、1728年の着工から約半年で完成させた。明治時代以降、流域の農家が維持費用を出し合い管理を続け、現在も県内の農地の2割以上を占める1万ヘクタール以上の土地に農業用水を提供している。

 完成当時、利根川からの取水口の元圦(行田市)や立体的に用水路と他の川を交差させる柴山伏越(白岡市)、瓦葺掛渡井(上尾市)など多くの先進的な設備が木材や石材で建設された。現在は改修され、コンクリート造りなどの形で姿を残している。

 2006年には農水省の疎水百選に選定。また、見沼代用水東縁用水路と西縁用水路を結ぶ「見沼通船堀」は本流と用水の水位差がある場合に閘門(こうもん)を使って水位を調整する閘門式運河として1982年に国指定史跡に登録された。

 県農村整備課は「見沼代用水がなければ流域の農業用水は枯れ川となり、農業が成

り立たなかっただろう。300年前の施設がこれだけ残っているのはすごいこと。身近にある貴重なかんがい施設を県民に知ってほしい」と語った。

 見沼代用水は2014年に世界かんがい施設遺産の国内選考に応募したが落選。今年2月に再び応募し、5月17日に国内選考を通過、ICIDに提出された。

 同省によると、日本国内からは他に十石堀(茨城県北茨城市)、倉安川・百間川かんがい排水設備群(岡山市)、菊池のかんがい用水群(熊本県菊池市)が登録された。

■埼玉農業発展に期待/大野元裕知事の話

 見沼代用水が世界かんがい施設遺産に登録されたことは誠に喜ばしく思う。今日まで見沼代用水を適切に管理してきた見沼代用水土地改良区の皆さまに敬意を表する。見沼代用水は江戸時代に徳川吉宗の命によって開削された、日本を代表する歴史ある農業用水路であり、現在も1万1千ヘクタール余りの水田を潤す重要なかんがい施設だ。今後も見沼代用水が、埼玉農業の発展ひいては地域の発展に大きく寄与することを期待する。

■見沼代用水

 利根川から取水し、県東部から南部の水田地帯を流れるかんがい用水。幹線延長は80キロ以上で、かんがい面積約1万ヘクタール以上の広大な農地に用水を提供する関東平野最大の農業用水。江戸周辺の新田開発を進め幕府財政の安定を図ろうとした八代将軍の徳川吉宗の命を受けた、江戸幕府の役人で治水家の井沢弥惣兵衛為永が築造し、1728年に完成した。県東部の低地を流れ、上尾市瓦葺で東縁用水(ひがしべりようすい)と西縁用水に分かれる。東縁用水は川口市、西縁用水は蕨市や戸田市に至る。

ツイート シェア シェア