埼玉新聞

 

激戦区というほどではないけれど…多様な種類のカレー店が注目集める埼玉の町 都内名店の創業者が移住して開業した店から本格的なインド料理まで 昭和30年代にカレー粉工場があった歴史も

  • 野菜も豊富な「茄子おやじ」のカレーと、店主の阿部孝明さん=小川町小川の「小川ぐらしの茄子おやじ」

    野菜も豊富な「茄子おやじ」のカレーと、店主の阿部孝明さん=小川町小川の「小川ぐらしの茄子おやじ」

  • 【地図】小川町(背景薄緑)

    小川町の位置

  • 野菜も豊富な「茄子おやじ」のカレーと、店主の阿部孝明さん=小川町小川の「小川ぐらしの茄子おやじ」
  • 【地図】小川町(背景薄緑)

 激戦区というほどではないが、多様な種類のカレー店が注目を集めている小川町。都内名店の創業者が移住して開業した店から本格的なインド料理まで、食べ歩きが楽しめる町には、昭和30年代にカレー粉工場があった歴史も眠る。“商人の町”に新旧の人々の思いが重なる。

■都内の激戦区から移住

 「小川ぐらしの茄子(なす)おやじ」。ユニークな名前は、カレー激戦区の都内・下北沢の名店「茄子おやじ」の創業者、阿部孝明さん(69)が小川町に移住して開業したことに由来する。

 1990年開業の「茄子おやじ」は、カレー店ひしめく下北沢で最古のカレー専門店といわれる。阿部さんによると、漫画家の浦沢直樹さんや作家の吉本ばななさんらも来店していたという。

 阿部さんは下北沢で店を26年間続けた。還暦を機に後進に店を譲り、両親が住む小川町に移住。「もうカレー屋をやるつもりはなかった」というが、町の人たちと関わる中で情熱に再び火が付いた。

 2019年3月に「小川ぐらしの茄子おやじ」がオープン。深みのある味わいの欧風カレーで、ナスなどの野菜をトッピング。カレーの提供は金~日曜日だが、都内をはじめ町外から訪れる人も多い。

 「下北沢では、カレー店が増えてカレー好きの人が集まってくる流れにわくわくした経験がある。お客さんに足を運んでもらうことで、育てられる文化がある。それに協力できたら」と阿部さんは話す。

■埼玉にビリヤニを

 スパイスを使った南アジアの炊き込みご飯、ビリヤニの専門店「強い女」は、当初は本格スパイスカレーの店として19年2月に開業した。オーナーの代々木原シゲルさん(42)は、音楽フェスの企画運営など異色の経歴の持ち主だ。

 開業まで小川町とは縁がなかったという。都心から電車で90分圏内で駅前が再開発されていない、四季が感じられる豊かな自然、有機農業が盛んといったところに目を付けた。空き店舗を借り、自らの手で改装した。

 全国のカレーイベントにも出店して知名度を高める一方、2月からは「県内初」のビリヤニ専門店に。代々木原さんはフランチャイズ展開も視野に「埼玉にビリヤニをはやらせたい」と話す。

 一方、町内で最古参のカレー店はインド料理の「ラジュモハン」だ。代表のシャルマ・スディール・クマールさん(55)は、インドのニューデリー出身。03年に開業した。

 インド産の20種類以上のスパイスを使ったカレーに、焼きたての大きなナン。定番のバターチキンカレーのほか、春限定で地元野菜「のらぼう菜」を使ったカレーも。「今後は小川町の野菜を使ったオーガニックやビーガンのカレーも考えている」と話す。

■絹と和紙の問屋が出資

 実は小川町とカレーの歴史は昭和30年代までさかのぼる。現在の町立図書館近くに「鈴源香辛食料」というカレー工場があった。町立図書館の新田文子館長によると、町内の絹問屋と紙問屋が出資して始めたという。当時は最先端だった即席カレーで、「スピードカレー」「エスジーカレー」の商品名で販売していた。

 当時の小川町は和紙や絹のほか、戦後復興で需要が高まっていた建具の取引で活況を呈していた。東武東上線を通じて都内の情報も入ってくる。「商家の大店(おおだな)の2人が、商機があると見て資本を出したのだろう」と新田館長。だが、この会社は労働争議の影響で、1959年に廃業した。

 今では記憶も薄れる中、町内の老舗肉店「ふじ屋」の「小川町コロッケ」はカレー工場の歴史を伝える。このコロッケはカレー風味で、当時のカレーをコロッケに混ぜたのが始まりという。新田館長は「“商人の町”の魂は綿々とつながっている」と話した。

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