埼玉新聞

 

ここは“第3のキャリア” 埼玉にある競走馬の養老牧場 乗馬クラブなどを経てたどり着いた高齢の馬たち 優しさに包まれ、穏やかな日々過ごす 「誰かのためになっていることは馬も分かる。それが生きる喜びに」

  • 「ぜひ馬たちに会いに来て」と話す代表の鈴木詠介さんと、牝馬のアマーレ(左端)と明日花=ときがわ町西平のホースケアガーデン

    「ぜひ馬たちに会いに来て」と話す代表の鈴木詠介さんと、牝馬のアマーレ(左端)と明日花=ときがわ町西平のホースケアガーデン

  • 「ぜひ馬たちに会いに来て」と話す代表の鈴木詠介さんと、牝馬のアマーレ(左端)と明日花=ときがわ町西平のホースケアガーデン

 2026年は午(うま)年。ときがわ町西平に、引退した競走馬の養老牧場がある。乗馬クラブなどを経てたどり着いた高齢の馬たちにとって、ここは“第3のキャリア”。一般的に競走馬の競技寿命は短く、引退後が課題になっているが、ここでは馬たちが乗馬体験などで現役として活躍中。人々の優しさに包まれながら、穏やかな日々を過ごしている。

■生命を預かる責任

 里山が広がるときがわ町西平にある養老牧場「ホースケアガーデン」。18年から代表を務める鈴木詠介さん(46)によると、現在牧場で暮らす馬は11~24歳までの7頭。馬の平均寿命は25~30歳ぐらいなので、高齢の馬ということになる。

 人間ならば70代に当たる24歳のパールは中央競馬を引退後、乗馬クラブで乗用馬になった。しかしクラブが廃業となり、パールの前途を心配したクラブ利用者が預託料を支払って預けたという。

 18歳のアマーレは中央競馬でデビューしたものの未勝利に終わり、その後は地方競馬に移籍して浦和競馬で1勝。「普段は穏やかだけど、ビビリでドキドキしちゃう馬」と鈴木さん。引退後、さいたま市在住の馬主が「この子はどうなるの?良い余生を送らせてほしい」と牧場に預けた。「(馬の)生命を預かる責任を考えている人たちに牧場は支えられている」と話す。

■人を喜ばせる仕事

 農林水産省畜産局の「馬産地をめぐる情勢」によると、24年末の中央・地方競馬の在籍馬は2万1907頭。両競馬で同年の登録抹消頭数は計1万838頭で、そのうちの3分の1強が中央から地方競馬などへの再登録。乗馬クラブなどの乗用馬となったのが3347頭、繁殖用は1204頭。その一方、「へい死」が1188頭、「その他」が1109頭に上る。

 人々によって命をつないできた牧場の馬たちは、ただ余生を過ごすだけではない。訪れる人たちを楽しませる“仕事”を行っている。馬好きの来場者たちは、馬に触ったり、中にはにおいを嗅ぐ人も。馬が高齢のため大人を乗せることはできないが、子どもの乗馬体験はできる。

 「誰かのためになっていることは馬も分かる。それが生きる喜びになっている」と鈴木さん。コロナ禍の時には触れ合い体験を中止にしたが、馬が老け込んで毛艶が悪くなったという。その後再開し、子どもを乗せた馬は「自信満々の顔をしていた」と話す。「生きがいを与えることが大事。これは人間と同じです」

■堆肥で商品を開発

 支援の輪は地域や企業にも広がる。ときがわ町は木工業が盛んで、木工所から引き取ったおがくずを馬がいる建物内に敷く。尿や馬ふんが混ざり、これが堆肥になる。これを町内の農家に提供し、収穫した野菜を分けてもらう。

 昨年はこの馬ふん堆肥を加須市内の農家に提供し、収穫したコメを使って県内の製菓業者が揚げせんべい「かぜのひとやすみ」を商品化。中山競馬場で販売し、売上金の一部が養老馬の支援に使われる。

 鈴木さんは「牧場をきっかけに、ときがわ町を訪れて、町が好きになる人が増えるといい。馬が地域にいることで経済的にプラスとなるモデルケースになれば」と期待していた。

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