埼玉新聞

 

クマ鈴の工場、フル稼働で組み立て クマの目撃情報や被害…東京ベル製作所の埼玉工場、来年8月の出荷分まで注文届く 生産拠点ある加須市、ふるさと納税の返礼品に…申し込みも増加傾向に

  • 最終段階の組み立て作業に追われる従業員

    最終段階の組み立て作業に追われる従業員=18日、加須市下谷の東京ベル製作所埼玉工場

  • 最終段階の組み立て作業に追われる従業員

 年の瀬が迫り、冬眠に入る季節となっても、各地でクマの目撃情報や人身被害の報道が絶えない。遭遇を避ける効果があるとされる対策の一つが、クマ鈴の携行。加須市下谷に生産拠点の埼玉工場を構える「東京ベル製作所」(本社・東京都荒川区)は、かつてないペースで製造を行っている。同市は個人版ふるさと納税の返礼品にしており、申し込みも増加傾向だ。

 18日、埼玉工場にある作業スペースで、3人の従業員たちがフル稼働で組み立てに追われていた。音が鳴る本体の「音響体」に、手際よく「振り玉」を付けていく。同工場の渡辺正樹営業部長(46)が、現状を説明してくれた。「2026年8月ごろの出荷分まで、既に注文が届いている。今年の2倍以上となる、年間約8万個のクマ鈴を作ることになるのではないか」

 ワンタッチで消音の切り替えができる同社のクマ鈴は、事故の増加とともに出荷を伸ばしてきた。同社の決算年度(10月~翌年9月)では、20年度の概数が3万2068個で初めて3万個を突破。今季と同じく事故が多かった23年度は、過去最多の4万8762個となった。24年度は3万8187個に落ち着いたが、25年度は今月18日までの2カ月半ほどで2万2173個を出荷したという。

 加須市は21年度から、東京ベル製作所のクマ鈴を個人版ふるさと納税の返礼品に採用している。クマ鈴が返礼品の寄付件数は初年度が46件、22年度88件、23年度107件、24年度は146件と年々増加。25年度は12月途中までで、98件の寄付があった。

 同市の個人版ふるさと納税は県内自治体でも人気が高く、約5・7億円を受け入れた24年度は県内6位。25年度は大幅増の17・5億円が見込まれ、10月には専決処分で2回目となる25年度一般会計予算の増額補正を行った。

 市政策調整課は寄付額を伸ばした一因として、返礼品の充実を挙げる。4月1日時点で24年は397種類だった返礼品は、25年が138種類増の535種類に拡大。同課は「返礼品に協力していただける市内事業所を地道に発掘した。クマ鈴もその一例」と分析する。同社の渡辺営業部長は「返礼品は食品が中心という印象で、私たちの土俵ではないと考えていた。参加を決めたのは、1974年から製造拠点を置く加須市に役立ちたかったので」と言う。

 東京ベル製作所は、自転車用のベルメーカーとして49年に設立した。日本で乗られている車両は安価な海外品が増え、自転車離れもあって国内の関連産業は縮小している。同社は技術を生かした新商品の開発を模索。2011年、クマ鈴の製造を始めた。

 登山者が使用する場合、山小屋をはじめとした公共の空間でもクマ鈴が鳴る状態にしておくのはマナー違反とされる。従来品は袋に入れて音が出ないようにしたり、ねじで振り玉を音響体から外すなどしていたが、同社は工業デザイナーと共同で「ノック式回転カム機構」を考案。片手で引っ張るだけで音の鳴る、鳴らないを変更できる商品を発表し、特許も取得した。

 3年ほど前からは、通学時の事故を防ぐため、児童らに携行させた県外複数自治体の教育委員会にも納入しているという。渡辺営業部長は「登山者や子どもたちが、安心して歩けるよう願っている。クマ鈴を作ることで、安全に貢献したい」と強調した。

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