埼玉新聞

 

健康へ影響 家屋被害も 「一律200メートル補償」に疑問/八潮の道路陥没事故(下)

  • 青色に変色した飲食店のポットと10円玉=17日、八潮市内

    青色に変色した飲食店のポットと10円玉=17日、八潮市内

  • 道路陥没事故現場からの距離と被害について説明する木下史江さん=17日、八潮市内

    道路陥没事故現場からの距離と被害について説明する木下史江さん=17日、八潮市内

  • 青色に変色した飲食店のポットと10円玉=17日、八潮市内
  • 道路陥没事故現場からの距離と被害について説明する木下史江さん=17日、八潮市内

 八潮市で起きた県道陥没事故では、住民に対する補償が問題になっている。県は8月、事故現場から半径200メートル以内の住民らを対象に、1世帯当たり一律3万円、世帯人員に応じ1人につき2万円を補償する枠組みを提示した。この秋、住民が自主的にアンケートを実施。被害は場所に差があるほか、特定の方角では200メートル以上でも被害が確認された。長期化する悪臭や振動による健康への影響、家屋や車への被害など、深刻さがより明らかになった。

 11月23日、硫化水素による健康への被害について、県主催の講演会が開かれた。埼玉医科大臨床中毒センター長で医師の上條吉人氏は県のデータから「硫化水素による直接的な健康被害はない」と断言した。ところが、質疑で住民からは不整脈、頭痛、ぜんそく、悪臭やストレスによる体調不良など質問が相次いだ。

 上條氏は「二次的な不快感によって、自律神経の不調が起きたら、メンタル的な被害も当然責任を持つべき」と県の責任に触れるのが精いっぱいだった。

 住民が実施したアンケートでは、112件のうち、複数回答で「ストレス・精神的負担」96件、「日常でのイライラ」49件、「不眠」40件、「気分の落ち込み」39件、「頭痛」27件、「せきが出る」24件と健康への影響が見られた。

 物的な被害も大きい。事故から数カ月、現場周辺の金属に異変が出始めた。車の金属部にさびが目立ち、室内外の蛇口や食器なども変色した。近隣でエアコンの故障が増え、バイクや自転車などにも影響が色濃く表れた。

 家屋についてはアンケートで、78件のうち「金属部分の腐食」27件、「建物のひび割れ」21件、「外壁の損傷汚れ」20件と回答があった。現場近くの男性は「外壁のひび割れについて、県からは経年劣化と言われた。ばかにしている」と吐き捨てた。被害を証明するのは難しい。

 事故現場から20メートルの場所で飲食店を営む80代女性は、自費でエアコン2台を買い替えた。さびて青く変色したポットを手に「こんなに色が変わった。あの猛暑でエアコンを替えない人はいない」と嘆いた。

 店舗のカレンダーは今年1月のまま。店を再開する見通しは立たない。「少し離れた店は営業を再開した。うちは臭いがひどくて、店を開けても誰も来ない」と悔しがる。

 事故現場は市の中心街。幹線道路が交差する場所で、飲食店や店舗、工場が立ち並ぶ。今回の事故で交通規制が長引き、休業を余儀なくされたり、売り上げ減に悩むなど被害が出ている。

 アンケート調査に取り組む近隣住民の木下史江さん(56)は、聞き込みを続ける中で、現場からの距離で影響が全く異なる点に違和感を持つ。「現場近くでは被害が深刻で、逆に現場から離れると被害が少ない世帯が多い。一方で、特定の方角では200メートル以上の場所で被害が認められる」と、指摘する。

 事故直後、陥没穴に落下したトラック運転手の救出活動を優先し、住民は耐え続けた。5月に運転手男性が“救出”。8月に県が補償の枠組みを明かし、ようやく住民への被害補償の問題が取り上げられるようになった。

 木下さんらは事故から1年を機に、実態調査を進め、具体的な補償を求める被害者の会を設立する。「住民の声を行政に届け、今後各地で起こりうるインフラ事故に備え、陥没事故の情報を伝える懸け橋になりたい」

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