「犯罪したくなかった」 甘い言葉に加担した女性 住宅ローン詐欺の闇/下
不動産投資の需要を逆手に取った詐欺事件。犯行グループは20~30代の若者を誘い込み、投資用であることを隠して高額な住宅ローンを申請させ、融資金の一部を中抜きしていた。グループの男女16人が逮捕されたほか、実際に申し込みをした顧客6人も詐欺容疑などで書類送検された。そのうちの一人で県内に住む30代の看護師女性は「犯罪なんてしたくなかった」と話し、結果的に犯罪に加担したことを涙ながらに悔やんだ。
■「みんなやっている」
女性は老後の資金に不安を感じていた2022年ごろ、友人から不動産投資を提案されセミナーに参加。グループの「紹介役」に当たる男に「住宅ローン融資を申請して新築物件を購入した後に、賃貸物件として運用すれば資産になる」と説明を受けた。毎月のローン返済よりも家賃収入の方が上回る実例とするデータを示され、「メリットしかない」「借り主が見つかるまではこちらが(費用を)補填(ほてん)する」などの甘い言葉で勧誘された。自身の金銭的負担がほとんどないことに魅力を感じて申し込みを決めた。
その後は「顧客対応役」の男から手続きや物件の説明を受けた。物件価格は6250万円で、住宅ローンとして申請するのは6150万円分。気さくで親近感を抱いたが、不動産投資について勉強したい旨を伝えると「専門家に任せた方がいい」とかわされ、物件を建てる土地を直接見る機会もなかった。手続きの委任状をグループが勝手に書いていたことも後に判明した。
最初はローン申請が通らなかったが、グループが女性の知らないところで源泉徴収票を偽造し、年収を200万円水増しするとすぐに通った。男らは「グレー(な行為)」としつつ、「みんなやっている」「合法の範囲」と説明したため、女性も「まさか犯罪とは思わなかった」。
申請した住宅ローンは投資目的では組めないため、本契約で金融機関担当者と対面する前に、投資用ではなく母と二人で暮らすためと示し合わせた。男らが作り上げた「シナリオ」に基づいた疑似の質疑応答もした。
犯罪だと気付いたのは、年収の水増しに伴う追徴課税の督促状が会社に送達された23年夏ごろ。不正を指摘され、がくぜんとすると同時に「(男らを)信じ過ぎて任せきりにしてしまった。なぜ気付くことができなかったのか」と後悔した。金融機関や税務署に説明して融資を取りやめ、収入も元の金額に戻したが、最終的に金融機関をだましたとして詐欺未遂容疑で書類送検された。さいたま地検は不起訴処分としている。
■何度も後悔を口に
ある不動産関係者は「かつて業界内では年収などの水増し行為が横行していた。今でも根絶に至ってはいないだろう」と話す。18年に判明した不動産会社とスルガ銀行(静岡県沼津市)によるシェアハウス投資などの不正融資問題では、今回の事件と同様に多数の融資申し込み人の預金口座残高が水増しされていたことなどが同行の内部調査で明らかになっている。
仕事が多忙で余裕がなく、「自分の将来に関わる意思決定を深く考えずにしてしまった」と、女性は何度も後悔を口にした。「多くの周りの人を巻き込んでしまい、二度と繰り返したくない。同じ思いをする人もいてほしくない」










