埼玉新聞

 

「1億すぐ稼げる」豪語 借金膨らみ続けた主犯格 住宅ローン詐欺の闇/上

  • 申込人の一人が融資を申請した物件の土地=14日午後、神奈川県内

    申込人の一人が融資を申請した物件の土地=14日午後、神奈川県内

  • 申込人の一人が融資を申請した物件の土地=14日午後、神奈川県内

 不動産投資の需要を逆手に取り、20~30代の若者に投資目的を隠して住宅ローンを申し込ませて融資金をだまし取る詐欺事件。県警は不動産関連会社の社員らで構成された犯罪グループを摘発した。グループは申込人に対して違法性を否定し、家賃収入など甘い言葉で犯行に引き込んでいた。主犯格の男は、さいたま地裁の公判で「会社の借金返済が追い付かず、やらざるを得なかった。(犯行スキームで)1億なんてすぐに稼げる」とうそぶいた。

■氷山の一角

 一連の事件は2022年7月、県警が別の偽造有印私文書行使などの容疑で告発を受けて捜査を始めた。グループは犯行を指示していた不動産売買「ASIS」代表の男(37)=詐欺罪などで公判中=を筆頭に、不動産関連会社などに勤める20~40代の男女16人が関与していた。

 グループは不動産投資などの資産形成に興味を持つ顧客情報を悪用。住宅ローンは本来、投資目的では組めないにもかかわらず、不動産知識がない申込人を促して自身の住宅購入名目と装い申し込ませた。その際、申込人の源泉徴収票を偽造して年収額を不正に水増しし、本来は組むことのできない高額ローンを組ませていた。グループは物件の建設費用を当初の半額程度に抑えて業者に発注することで、差額を得ていた。

 県警捜査2課などは昨年末から今年9月にかけて、東京都や神奈川県内にある六つの物件などについて、不正にローン申請を行い融資を受けたなどとして、詐欺や詐欺未遂の疑いで16人を逮捕。申込人の男女6人を詐欺容疑などで書類送検した。未遂事件1件を含めると、被害額は計約3億円に上った。

 グループメンバーは男の指示下で、申込人候補をグループにつなぐ紹介役や、源泉徴収票や確定申告の偽造役、建設業者への仲介役などを分担。通信アプリで申込人の個人情報を共有して数百件の犯行を繰り返していたとみられる。ある捜査関係者は「今回の事件は氷山の一角に過ぎない」と語った。

■涙ながらに反省

 さいたま地裁で行われている公判で検察側は、男が不動産業界で「ふかし」行為と呼ばれる顧客の年収水増しの指示も行っていたと指摘し、悪質性を強調した。

 男は自身の会社で不動産売買を行っていたが、コロナ禍で経営難に陥り20年末に事業を畳んだ。その後、共犯の男と別会社で新たに事業を始めたがうまくいかず、22年ごろから徐々にふかし行為や不正融資などの犯行に手を染め始めたという。

 犯行スキームは取引先の同業者から提案を受けたと説明。借金返済や従業員の生活に影響が及ぶ危機感から「ふかしをやらざるを得なかった。一度県警から任意で取り調べを受け、捕まるかもしれないと思いながら犯行していた」と供述した。

 犯行を繰り返しても申込人の紹介料や共犯者への報酬などで支出は多く、借金は減るどころか増え続けて5億~6億円にまで膨れ上がった。老後の蓄えを切り崩して複数回50万~100万円を貸した母親は、証人として出廷した法廷で「大半は返ってきていない。自分を見つめ直してほしい」と述べた。男は反省の弁を繰り返し、「同じようなことは二度としない」と涙ながらに話した。

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