埼玉新聞

 

市場に出回らない魚介類、職人歴31年の腕でお薦めに 蕨の鮨ヒカリズキ 「未利用魚」を扱うすし屋「手間をかける分、おいしくなるのは間違いない」

  • 「食べられることのなかった魚の魅力を知ってほしい」と話す、鮨ヒカリズキの店主山川忠康さん

    「食べられることのなかった魚の魅力を知ってほしい」と話す、鮨ヒカリズキの店主山川忠康さん=25日、蕨市中央

  • 「食べられることのなかった魚の魅力を知ってほしい」と話す、鮨ヒカリズキの店主山川忠康さん

 クロシビカマスにブダイ、ヤリマンボウなど、お薦めに並ぶのは、聞いたことのないネタばかり。蕨の一角に店を構える鮨ヒカリズキ(蕨市中央)は、一般的に知られていないことであまり市場に出回らない魚介類、いわゆる「未利用魚」を扱うすし屋だ。10席ほどの店内は、お客さんの笑顔で日々、あふれている。店主の山川忠康さん(50)=蕨市=は「名前を知らない魚も、おいしいんだと知ってもらいたい」と、思いを込めながらすしを握る。

■等しい命

 ヒカリズキは2022年9月にオープン。当初は店名にある通り、コハダなどの光り物のにぎりずしを中心に考えていたが、ある仲買人の言葉を転機に未利用魚の提供も始めた。「等しい命なのに、人間の都合で未利用とされてしまう。『未利用魚』という言葉そのものが好きじゃない」―。

 日本の漁業では、漁獲した後の処理や仕込みが悪いだけで、おいしくない魚と判断されて廃棄されてしまうのが現状だ。しかし、「どんな魚もおいしくないわけがない。捨ててしまうのは単なる人間のエゴだ」と山川さん。元々は鮮度のいい魚を仕入れるために仲買人とはつながったが、今では珍しい魚介類の仕入れに協力してもらっているという。

■光る技術

 本来はおいしい魚でも、人間の都合で廃棄されるなど使われないのが、未利用魚。そんな未利用魚の魅力を知ってもらうため、仕込みの段階から、山川さんの技術が光る。

 例えば、クロシビカマス。骨の数が多く、入り方も複雑だが、山川さんは全て手作業で抜いている。ブダイは、主食の海藻類の発酵臭が内臓から身に移り、おいしくないとされていたが、鮮度のいい段階で内臓を取ることで臭い移りを防ぐ。「手間をかける分、おいしくなるのは間違いない。命をいただくのだから、手を抜くことはできない」

 未利用魚の特性上、扱い慣れている人が少なく相談できる人もいないので、さばき方は自分で考えながら身に付けるしかない。まさにトライ・アンド・エラーの繰り返しだ。これまでさばいてきた魚介類は100種を優に超えるが、いまだに新たな発見もある。「知らないお魚を使っていると、似ているところから魚の傾向をつかめて、技の引き出しも増えてくる」と職人歴31年の今でも、腕を磨き続けている。

■楽しい雰囲気

 すし職人を志したのは、飲食店の中でも、調理しながらお客さんとの交流を楽しむことができるから。自身の経験からも「おいしくても、感じの悪いお店は嫌だ」と楽しみやすい雰囲気づくりを心がけている。

 「そんなに強い思いはないけど、お客さんには今まで食べられることがなかった魚の魅力を知ってほしいな」と謙遜交じりにほほ笑む山川さんだが、その手から生まれるにぎりずしには確かな情熱が込められている。

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【鮨ヒカリズキ】蕨市中央1の3の4。月~土曜 は午後5時~同10時半まで。土曜のみランチ営業(午前11時半~午後2時半まで)。定休日は日曜と、祝日の月曜日。問い合わせは、同店(電話080・4172・5655)へ。

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