埼玉新聞

 

<スポーツのまちづくり8>スタンス変えて ビール大成功…重い課題 目線を「現状維持」から「進化」に

  • 池田純氏

 先月27日、第7回ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムの本番当日。私はツール・ド・フランスのロゴ入りオリジナルビールの販売に追われた。告知は不十分だったが、ふたを開ければ大行列。1200本と生ビール800杯近くを完売し、優に100万円以上の収益になった。

 大会当日しか手に入らないビールが、10万人の自転車ファンや多くの市民が足を運ぶイベントで売れないわけがない。世の常だが、初めての挑戦に周囲は冷ややか、販売予測は抑えられ、自分が売り場に立つしかなかった。

 本当は数カ所で販売すべきだし、しっかり売れば1千万円規模の売り上げになる。民間企業ならすごい種を見つけたことになるのだが…。

 本家のツール・ド・フランスの人気の秘密が、コース沿いの景色を見せる「旅番組」的な中継にあることは前に触れた。さいたまクリテリウムもその線を狙いたいが、現在のコースの変更は難しいと念を押されている。ならば自転車周辺のビジネス接点を開発し、収益源を作るしかない。

 私は一つのモデルを示したのだが、現状を憂い、進化を渇望し発言する私に、周囲の反応は冷淡なようだ。これだけの成功を目の当たりにすれば「来年はこう売りましょう」「グッズの販売はこうしよう」といった声が民間企業なら出てくるのだが…。

 当日のグッズ売り場は行列もなく、手持ち無沙汰の職員も見えたが、ビール売り場へ手伝いに来るわけでもない。私は忙しくしながら蚊帳の外に置かれた気分だった。

 SSC職員の大半はさいたま市職員で、いずれ行政の仕事に戻る。民間組織の肝、人事評価権を任されずに組織を動かすのは極めて難しい。ビール販売が成功したことで重い課題が明らかになった。

 SSC会長として、さいたま市が続けてきたクリテリウムを「未来に続けていってあげたい」と「抜本的な改革をすべき」と声を大にしてきたが、周囲からは「会長発言が心配されている」「波風が立っています」という反応ばかり。コミュニケーションの問題以上に目線の問題。

 対立構造に仕立て上げられたくはないし、クリテリウムを続ける構図を描いてあげたい気持ちに変わりはない。スポーツビジネスのプロとして様々なアイデアも持っているが、それを周囲に「ああすべき、こうすべき」と言うのはいったんやめようと思う。こちらがスタンスを変えない限り、発言すら問題視され続けるから。

 民間と行政の思考。それぞれの正しさがある。どうにかして目線を、現状維持から進化に統一できないものか。もともと考え方の根幹が違うが批判はやはり私の発信力に集中している。民間のように羽ばたくことが許されないなら「私を使ってみてください」とスタンスを変えよう。まずは聞きに来てほしい。進化が始まればと期待している。(次回は25日付)

■池田純(いけだ・じゅん)

 1976年横浜市生まれ。早大卒。住友商事、博報堂を経て2011年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長。観客動員数、売り上げ拡大に実績を挙げた。日本プロサッカーリーグアドバイザー、大戸屋ホールディングスなど企業の社外取締役なども務める。

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