埼玉新聞

 

ひき逃げ実刑の教頭、最後まで口閉ざす 母亡くした娘が涙「飲酒では裁かれず、懲役2年は納得できない」

  • 死亡ひき逃げ事故を起こしたとみられる乗用車。前面の左側に衝突痕がある=2018年7月29日、武南署

 川口市の路上で昨年7月、自転車の女性を車ではねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)と道交法違反(ひき逃げ)の罪に問われた、草加市長栄1丁目、小学校教頭、田中嘉明被告(55)=休職中=の判決公判が26日、さいたま地裁で開かれ、加藤雅寛裁判官は懲役2年(求刑・懲役3年)を言い渡した。

 突然の事故で母親を失った遺族は「真相を知りたい」と被害者参加制度を利用して公判に臨んだが、判決まで田中被告の口から事故の詳細が語られることはなかった。最後まで口を閉ざした被告に遺族は「何も語らず黙秘で片付けられてしまったことが許せない」と憤った。

 公判に参加したのは亡くなったイトウさんの子ども3人。長女(41)は岩手県から駆け付け、判決の言い渡しを涙を流しながら聞いた。判決後、長男(35)は「飲酒していたという部分では裁かれていない。一人の命を奪っておいて懲役2年は納得できない」と話した。

 イトウさんが事故に遭ったのは仕事から帰宅する途中、次女(24)と同居する自宅まで残り数百メートルのところだった。「家族みんなで故郷のフィリピンに行こうね」―。そのための資金を貯めようと仕事を始めた矢先の事故だった。

 つらい思いを抱えながらも母が亡くなった真相を知りたいと裁判に参加したが、被告は黙秘。最終意見陳述で謝罪の弁を述べたが「形だけの謝罪」と感じ、怒りが込み上げた。

 なぜ逃げたのか、遺族に対してどう思っているのか―。長男は「聞きたかったことが何も分からないまま。裁判が終わって一段落してから母の遺骨をフィリピンのお墓に入れようと思っていたが、これでは無念だけが残る」と涙ながらにやりきれない思いを口にした。

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