埼玉新聞

 

需要高まる“介護美容” 日々の生活に彩り 笑顔や自信を取り戻す“心のケア”に 介護が必要な高齢者にハンドマッサージやネイルケアなどの美容サービスを提供

  • 優しく話しかけながらネイルケアを施す荻野久子さん=2日、さいたま市見沼区の「SOMPOケア ラヴィーレ大宮弐番館」

    優しく話しかけながらネイルケアを施す荻野久子さん=2日、さいたま市見沼区の「SOMPOケア ラヴィーレ大宮弐番館」

  • 優しく話しかけながらネイルケアを施す荻野久子さん=2日、さいたま市見沼区の「SOMPOケア ラヴィーレ大宮弐番館」

 介護が必要な高齢者にハンドマッサージやネイルケアなどの美容サービスを提供する「介護美容」。日々の生活に彩りを与えるとともに、認知症や精神疾患を患う利用者の表情が和らぎ、笑顔や自信を取り戻す“心のケア”に効果が見込めると近年、需要が高まっている。看護師や介護士のリスキリングのほか、介護、美容の未経験者など、働く女性の新たな選択肢を広げる注目の職業だ。

◇看護師との二刀流

 「かわいい爪ですね。光ってきましたよ」。ほほ笑みながらネイルケアを施すのは、荻野久子さん(63)=さいたま市大宮区。同市見沼区の介護付き有料老人ホーム「SOMPOケア ラヴィーレ大宮弐番館」で本職の看護師に加えて、月に3、4回、ビューティーケアワーカー(美容ができる看護師)として働く。

 21歳から看護師として病院や高齢者施設に勤務してきた荻野さん。「看護師だけで終わりたくなかった」と、次のキャリアを模索している中で介護美容の存在を知る。「自分もきれいになれるし、相手をきれいにできる。高齢者との接し方という面でも生かせると思った」。61歳の時にミライプロジェクト(東京都渋谷区)が運営する専門スクール「介護美容研究所」に約8カ月間通い、エステなどの技術やビジネスを学んだ。

◇柔らかく穏やかに

 荻野さんは、同施設が介護美容を取り入れた昨年11月から80~90代を中心に延べ110人以上に施術をしてきた。

 「皆さん、キラキラしていて少女漫画の中の少女のよう。『きれいになったよ』と言ってもらえてうれしい」と荻野さん。認知症などの影響でコミュニケーションを取るのが困難な利用者もいるが、施術後に変化が生まれるケースも多い。暗い顔をしていた人が明るくなったり、普段は目を閉じている人が目を開けて興味を示す。表情が柔らかく、心は穏やかになるという。

 施設の峯岸佳ホーム長(36)も「医療や介護では埋めることができない心の隙間を埋めてくれるのが美容ケア。気持ちが前向きになることが、心の安心や生きる力につながる」と効果を実感している。

◇大宮に研究所開校

 介護美容は新しいキャリアの選択肢としても耳目を集める。同社によると、「介護美容研究所」の受講生は30~50代が多く、荻野さんのような看護師もいれば介護、美容の未経験者もおり、年代や経歴問わず幅広く活躍。研究所が提供するサービスは全国の高齢者施設で活用され、2021年と24年の9月期を比較すると、導入施設数は39件から446件に、利用者数は2875人から2万3010人とともに急増しているという。

 研究所は東京、横浜、大阪、福岡、名古屋に続き、今年10月には大宮校(大宮区)が開校予定で受講生募集は5月から始まった。大宮校新設により、首都圏の中核拠点として埼玉や北関東エリアでの学びやすさと人材供給の強化に期待がかかる。同社の広報担当者は「施設で働く人を増やし、東京で中心となっている介護美容を北関東にも広げていきたい」と力を込めた。

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