埼玉新聞

 

<新型コロナ>埼玉の保健所・検査が逼迫、基礎疾患ある濃厚接触者へ対応難しく 家庭内けんか頻発、母奮闘

  • リスク高まる難病児 新型コロナで保健所逼迫、検査に時間

 感染力が強いとされる新型コロナウイルスのオミクロン株のまん延を受け、埼玉県内の保健所は逼迫(ひっぱく)し、さいたま市では感染者への連絡に数日かかる事態となっている。同市は人員を拡充し、基礎疾患がある人には陽性判明翌日までに連絡する方針としているが、感染者本人ではなく家族に基礎疾患がある場合には連絡を急ぐ対象にはならない。日常的に人工呼吸器などのケアを受ける「医療的ケア児」やその家族は高いリスクを抱えながら孤軍奮闘している。

■何回も断られ焦り

 県が発表した今月1日の感染者の内訳では、ワクチン接種の対象とならない10歳未満が375人に上り、他の年代よりも大きな割合を占めている。

 さいたま市に住む女性(39)は、高校生の長女が1月中旬に感染し、難病を持つ小学生の長男のPCR検査を求めて奔走したが「薬局の無料検査も診療・検査医療機関も予約がいっぱいで、何回も断られた」と振り返る。一般的に濃厚接触者が検査を受けるのは保健所から感染者への最初の連絡後だが、長女の場合、保健所からの連絡は検査を受けてから約1週間後。女性はその間に長女が受けた医療機関や長男のかかりつけ医に検査を依頼したが、濃厚接触者としての特定前であることや、検査を扱っていないことを理由に断られたという。

 長男の難病は治療法が確立されていないが、呼吸器症状を伴うため、状況に応じて人工呼吸器を使用している。この病気を研究する県外の医師は埼玉新聞の取材に、「確実なことは不明だが、コロナ感染を契機に悪化することも考えられる」と指摘する。「私は後回しでもいいから長男に検査を受けさせたい」と焦りを募らせていた女性は、結果的に勤務先が用意したPCR検査で保健所からの連絡前に長女以外の陰性を確認できた。

■判明まで1週間

 感染拡大に比例して、薬局や診療・検査医療機関で行っている検査も逼迫しつつある。県内の開業医らでつくる県保険医協会の山崎利彦理事長は「依頼している検査機関では、検体採取から結果判明までは3日間程度だったが、数日後には1週間かかるようになった」と説明。検査キットについては大野元裕知事も2月1日の記者会見で「最大の懸念は検査キットの不足」と言及し、国に確保を求める考えを示した。

 さいたま市の担当者は「家族などの濃厚接触者に基礎疾患がある人がいるかどうかは、感染者に最初の連絡をするまで分からない」と基礎疾患がある濃厚接触者への対応の難しさを明かす。県感染症対策課は「原則として症状がなければ診療・検査医療機関の検査対象とはならない」と話し、濃厚接触特定前に症状がない人がかかりつけ医や診療・検査医療機関で検査を受けることに慎重な見方を示した。

■頼れる施設や知人を

 現在、女性を悩ませているのは、濃厚接触者の自宅待機期間の長さだ。長女が学校に復帰した日からさらに10日間の待機を保健所から指示され、一家が自宅にこもる期間は半月以上となる。女性は「長男は姉のせいで学校に行けないと怒り、きょうだいげんかが頻発している」と明かす。「感染者本人より家族の方が長く待機に耐えないといけないのはつらいが、電話で保健所職員の疲れた声を聞いて、文句を言う気にはなれなかった」とため息をこぼした。

 昨年、難病の子どもに関する県の集会で感染対策について講演した埼玉医科大学総合医療センターの儀賀理暁(ぎか・まさとし)医師は「医療的ケア児などの家族は人一倍気を付けているが、感染してしまうことはある。疾患がある人の検査などを優先する制度がない中では、頼れるものが何か日頃から考えておくことが必要」と指摘する。

 疾患のある子どもを預けられるレスパイト入院先や、非接触で買い出しを担ってくれる近隣の知人を確認することに加え、電話や会員制交流サイト(SNS)の通話で直接声を聞ける関係を築いておくなど「心理面での支えがあるとないとでは全然違う」と強調。当事者や家族に関しては「企業や組織の事業継続計画(BCP)のように、誰かが感染した場合に備え、相談先や家の中での隔離方法を決めておく」ことを提案し、周囲に対しては「コロナ禍は頑張っている家族を周りが支える総力戦。感染することを責めず、社会全体で支えなくてはならない」と話した。

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