埼玉新聞

 

血が…苦しんだ飲食店、手に負えない客も コロナ禍で「きつかった」 徐々に戻りつつある活気、心配事も

  • 昼時の店内で料理の仕込みをする赤坂架月代表=20日、さいたま市大宮区仲町の「もつ焼き大阪屋」

 さいたま市大宮区の南銀通りに店を構え55年になる「もつ焼き大阪屋」は定休日以外はほぼ休みなく営業し、店を守り続けてきた。「苦しかったし、精神的にきつかった」と語るのは3代目の赤坂架月代表(28)。コロナ禍で赤坂さんは歯茎から血が出ることが多くなり、歯科医に「ストレスが原因」と診断された。

 昨年はデリバリーや店頭での弁当販売を新たに開始。今年に入りランチ売り上げがそこそこ好調だったのを機に、酒を一切出さないで勝負した時期もあった。しかし2、3人しか来店客がいない日もあり、「おいしいものを自信を持って出してもお酒がないと厳しいんだな」と身に染みた。

 逆に協力金をもらわず、酒類の自粛要請期間中に酒の提供を試みた約2週間は客はものすごく入ったという。一方で「飛沫(ひまつ)防止シートを外されたり手に負えない感じになってしまった。注意しても聞く耳を持ってくれなかった」と違う難しさも痛感した。

 8、9月の緊急事態宣言中は店内営業は行わずに、弁当のテークアウトとデリバリーのみとした。出勤は赤坂さんと共に店を切り盛りする母親の2人だけにし、アルバイトには休んでもらう代わりに緊急雇用安定助成金を休業補償として支払った。その分、10月1日から夜の営業と酒の提供ができるようになった時の喜びは格別だった。「やっぱりこれだよね」としみじみ語る常連客の表情を見て「このやりとりがうれしかった」。

 現在、売り上げは6、7割まで戻ってきたという。25日からは営業を午後10時ラストオーダー、同11時までにし、カウンターなど席の間引きもなくすが以前は当たり前だった相席は最初は解禁しない予定だ。店内で知り合った人が気兼ねなく飲める店として誇りを持っている赤坂さんが世の中に望むのは一つ。「平凡な日常が一日でも早く戻ってきてほしい。それだけです」

 さいたま市浦和区の「酒蔵力 浦和本店」ではコロナ禍でも店は一度も閉めずに、ランチ営業や弁当のテークアウト、定食の提供も始めた。

 サッカーJ1浦和レッズのサポーターが集まって、テレビ画面越しに応援することでも知られる同店。埼玉スタジアムの観客数に上限があり、チケットの入手が困難だったため、緊急事態宣言中はウーロン茶を手に応援してくれる客も多かったという。ただ夏季は午後7時開始の試合が大半で、今井俊博店長(42)は「(当時は)19時ラストオーダーで20時閉店。前半だけ見て帰っていただくのは本当に心苦しかった」と明かす。

 それでも今月1日から酒類の提供が解禁となり「『家で飲んでも楽しくない』とみんな笑顔で戻ってきたのがうれしかった」と今井さん。一時は売り上げが10分の1ほどに落ち込んだこともあったが、以前の活気が戻りつつある。

 25日からは営業時間をこれまでの午後9時から同11時まで延ばす予定。ただ今井さんには心配事がある。この1年半で宅飲みが浸透するなど生活環境が大きく変わったからだ。「接客や料理でカバーしていきたい。飲食店側も感染対策を徹底し、しっかり管理ができているので、安心して来ていただける世の中になってくれれば」と切に願う。

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