埼玉新聞

 

口外禁止でタブー…殺処分される競走馬たちの現実 嘆いた男性が保護活動、牧場などに譲渡 賛同の声が続々

  • 保護した引退馬と親しむ林由真さん(林さん提供)

 競走馬を救いたい―。さいたま市岩槻区の林由真さん(38)は、競走馬に第二の人生を与えようと、乗馬クラブや牧場に譲渡するなどの保護活動をしている。「引退した多くの馬が人知れず殺処分されている現実を知ってほしい」という林さんに、千人を超える賛同の声が広がり、多くの支援が寄せられている。

 馬主の林さんが保護活動に関わるようになったのは、愛馬フロリダパンサーとの出合いがきっかけだった。2019年、愛馬はレース中に靱帯(じんたい)を損傷する大けがを負った。周囲は安楽死を迫ったが、林さんは「どうにか助けたい」と関係者に片っ端から連絡。幸いにも、千葉県で騎手や厩務員(きゅうむいん)を育成する馬事学院で引き取ってもらうことができた。

 フロリダパンサーは長い療養生活を乗り越え、奇跡的に走れるまでに復活。林さんは「諦めなければ、もっと救える命があるはず」と、競馬で引退した馬の保護活動に取り組む決意をした。

 けがを負った競走馬が殺処分に追い込まれることは、業界では口にしてはいけないタブーとされている。林さんは「競馬界で馬は経済動物として扱われ、走れなくなったら殺処分という風潮が変わらず根付いている」と嘆く。

 一部の有名な馬は種牡馬になり生き長らえるが、多くの馬は、引退と同時にその後の行方が分からなくなる。一方で殺処分される前、食用に馬を肥えさせる肥育場という施設があるという。

 林さんは、とある肥育場を訪れた時、引退した競走馬が殺処分に向けて時を過ごす場面を目の当たりにした。肥育場で働く担当者ですら、これから殺処分される馬を管理する仕事に心を痛めていたという。

 馬を保護するには多額の費用が必要。林さんは、保護活動の一環として、肥育場の馬を購入、乗馬用に訓練し直し、乗馬クラブや牧場に譲渡する仕組みを考えた。資金はクラウドファンディングで募ることにした。

 この春、インターネットで保護活動への支援を呼び掛けると、瞬く間に賛同者の輪が広がり、1200人を超えるまでに。支援額も1442万円に達した。林さんには「勇気ある活動、一頭でも多くの馬を救って」と数多くのコメントが寄せられた。

 今後もプロジェクトを通じて支援者を増やし、保護活動を広げていきたいとする林さん。6月には引退馬を支援する団体「Retouch(リタッチ」)」を設立し、会員を募集している。林さんは「多くの人に伝えたい。保護活動を広げることで、一頭でも多く馬を救い出し、新しい“馬生”を送らせてあげたい」と話している。

ツイート シェア シェア