埼玉新聞

 

埼玉文学賞受賞・それから(上) 俳句部門準賞の箱森さん、自分を肯定できた 句作11年、模索した先に光

  • 「短い言葉で新しい世界を伝えられることが俳句の魅力」と話す箱森裕美さん=川口市内

 昨年開催された「彩の国・埼玉りそな銀行 第51回埼玉文学賞」の俳句部門で準賞に選ばれた箱森裕美さん(40)=筆名、埼玉県川口市=。11年の俳句歴で初めて賞に輝いたが、これが暗中模索の状態を乗り越え、自分を肯定するきっかけになったと語る。埼玉文学賞について「20句という取り組みやすい分量。一つの作品を作り上げて、達成感も味わえる。最高賞の正賞をとるまで挑戦し続けたい」と意欲を見せる。

■自分を肯定できた

 大学時代、授業で近代俳句の代表的俳人である山口誓子の「夏の河赤き鉄鎖のはし浸る」という句に触れ、たった17字で情景を描く俳句の魅力に目覚めた。2009年から句作を開始。13年に子どもを出産し、指導を受ける時間がとりにくくなった。賞に応募しても落選。「自分の句がいいかどうか分からない」。自信が持てない状態が続いていた。

 そんな中、初めて賞に輝いたのが埼玉文学賞。受賞作「傾ける」は、日常生活を瑞々しい感性で詠んだと評価を受けた。箱森さんは「審査員の先生方から『いい』と言ってもらえたのが本当にうれしかった。評価を気にしないのが一番だけれども、受賞で作品に自信が持てた」とほほ笑む。

 20年12月に「第10回百年俳句賞」(マルコボ.コム主催)で最優秀賞に選ばれ、受賞が続いた。「なぜ私が選ばれたのかなと不思議。でも正解は一つじゃないことに気付き、他の賞で選考に漏れてもそんなにショックを受けなくなった」と話す。

 現在は在宅ワークをしながら、小学生の長女(8)と幼稚園児の次女(4)を育てる。コロナ禍で所属する俳句結社の句会が中止になる中、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」や、無料通信アプリ「LINE(ライン)」のグループ通話を活用してネット句会を開く。同世代の俳句仲間から「誰か30分だけ即吟(そくぎん)(その場ですぐ詩歌をつくること)しませんか」とラインに書き込みがあったのをきっかけに、テーマを決めて投句し合っている。アイデア出しの意味合いもあるため選評は行わず、最後に「いいね」のスタンプ。ネットの時代の俳句の楽しみ方を知っている人だ。

 俳句に興味を持つ人がいれば積極的に誘う。「自分の好きなものをみんなで楽しむことが好き。だから俳句を楽しむ人が増えたらうれしいし、そんな場を作っていきたい」と語った。

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 「彩の国・埼玉りそな銀行 第52回埼玉文学賞」の作品募集に合わせ、過去の受賞者に、受賞後のことと創作にかける思いを聞いた。

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