埼玉新聞

 

家族友人すべて消し去った震災 胸が締め付けられた高岡電気工業・社長、減災システムを開発 #あれから私は

  • 東日本大震災では各地の被災状況を1000枚以上の写真に収めた

 「仮設住宅の建設に向けた現地調査で訪れた山田漁港(岩手県山田町)の年配男性との会話が忘れられない」と埼玉県松伏町の高岡電気工業社長、高岡武さん(69)。カキ養殖業のその男性は震災当日、仕事仲間とたまたま県外へ旅行に出かけて無事だったが、留守中に家族や友人、自宅や職場など人生で最も大切な財産が津波で流され、「すべて消えてしまった」という。残ったのは旅行用のボストンバッグが一つだけ。カキ養殖の再開にも数年かかる見込みで年齢的にも難しい。励ます言葉が見つからず、ただ「私はカキが好物です」と伝えて別れたという。「数年後、カキ養殖が再開されたと聞き、心の底からうれしく思った」としみじみと振り返る。

 高岡さんは2011年の東日本大震災以降、独自に防災・減災システムの開発を始めた。被災者でもある多くの消防団や自治体関係者らが命の危険を顧みず職務に当たっている姿をテレビで見て胸が締め付けられた。「限られた人数で災害現場の映像状況確認と情報発信ができれば減災につながる」と開発のきっかけを語る。

 元々再生可能エネルギーの活用など新技術の研究に取り組んでいた。「あるもの(既製品)とあるもの(同)を組み合わせてないもの(オリジナル製品)を作る」ことは得意だった。約3年の歳月をかけて完成したシステムは名付けて『鳥シリーズ』。機種別に暗視カメラやソーラーパネル、充電用コンセントや警報機(スピーカー)などさまざまな機能を備えた多機能照明灯で、本体にバッテリーが内蔵。独立一体型で「設置場所を選ばないのが最大の特長だ」という。夜間や遠くからでも現場の様子がパソコンや携帯電話で確認できる。用途ごとに「フクロウ(防犯)」や「タカ(自然災害監視)」といった名前が付けられている。

 「自然の力には誰も勝てない。災害をなくすことはできないが、速くて正確な情報を基に行動すれば被害を減らすことはできる。あの震災の記憶を次代の教訓として生かさなければ」。10年前、青森から福島まで約300カ所の災害現場を歩き回ったぼう大な記録写真を眺めながら自分自身にそう言い聞かせた。

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