埼玉新聞

 

かつての歓楽街、今は…身近な場所で海外旅行気分 “手加減なし”の本場の味も 西川口の「ガチ中華」

  • 人気メニューの一つの「豚足」

    人気メニューの一つの「豚足」

  • 仕込み作業を行う山田慶忠=4月2日、埼玉県川口市

    仕込み作業を行う山田慶忠=4月2日、埼玉県川口市

  • 人気メニューの一つの「豚足」
  • 仕込み作業を行う山田慶忠=4月2日、埼玉県川口市

 埼玉県川口市のJR西川口駅周辺には、本場の味のままで日本人好みにアレンジしていない中華料理、「ガチ中華」の店が集まっている。中でも山東省料理店「異味香(イウィシャン)」は、その先駆けとして30年以上前から営業を続けている。

 2代目店主の山田慶忠(よしただ)(55)は、山東省をルーツに持つ孔子の73代目の子孫。日本人の好みに寄せた創作メニューも提供する一方で、「土台にあるのは店のアイデンティティーでもある父から受け継いだ山東省の味」と胸を張る。

 きっかけは約60年前にさかのぼる。山東省出身の祖父が長野県生まれの祖母と結婚し、1960年代に来日。鋳物製造の経験を生かした職に就くため、鋳物の街だった川口に移り住んだ。引退後は西川口でラーメン店を開業。「本場の中国人が作った」と評判になって繁盛した。

 祖父と同じく料理人になった父の孔憲蕚(コンシェンウォ)は、都内の中華料理店などで修業し、91年に「異味香」を開いた。しかし、当初から“山東省の味”が日本人に受け入れられていたわけでなく、なじみが薄かった豚足などは「ゲテモノと言われた」という。

 長男の山田は横浜中華街で修業した後、父の店に入り、20年以上、父と調理場に立った。手取り足取り教えられることはなく、とにかく「見て学べ」。味を受け継いだ豚足は、下ゆでした後、しょうゆをベースにハッカクやニッキ、サンショウ、タカノツメなどの香辛料と煮込み、1日かけて冷まし、味を浸透させる。肉のうまみと香辛料の芳醇(ほうじゅん)な香りが鼻から抜け、弾力のある食感がたまらない。

 今やガチ中華が敬遠されたのは昔の話だ。市内で中国人の人口が増え、西川口でそれぞれの郷土の味を提供する本格中華の店が増えていった。すると、普段は食べられない料理を求めて日本人の客も遠方から集まってきた。

 店を訪れていた日本人親子は「身近な場所で海外旅行をしている気分になれる」。山田は「全国各地の中華街の料理は、観光客である日本人をターゲットにしているものが多い。西川口との最大の違いはそこにある」と話す。

 川口市には、中国のほか、韓国、ベトナム、トルコなどさまざまな国にルーツに持つ人が居住している。日本人や外国人との相互理解の糸口として、山田は「食」が持つ可能性を説く。「ガチ中華とひとくくりにされても、地域や店によって味にバラエティーがある。いろんな料理を食べてもらって、それぞれの歴史や文化を知ってほしい」(敬称略)

■駅周辺が“新中華街”に

 西川口駅周辺には100近い中華料理店が割拠し、「西川口チャイナタウン」とも呼ばれる。山東省だけでなく、福建省や東北部の料理、ウイグル料理など、中国各地のガチ中華の店がある。また、市内に住む中国人は1月現在で約2万4200人で、外国籍住民全体の56%を占める。

 川口市の担当者などによると、西川口で中華料理店が増え始めたのは2000年代後半以降だという。以前は違法風俗店などが数百店あった歓楽街だったが、04年に県警が「風俗環境浄化重点推進地区」に指定。一斉摘発が行われ、「ゴーストタウンのようになった」(山田)。家賃の安さや立地の良さから、空いた店舗に目を付けた中国人らが入居し、中華料理店も増えた。

 地元商工会議所などと連携し、駅周辺でB級グルメ大会も開催。22年の新語・流行語大賞にもノミネートされるなど、「ガチ中華」ブームの中、西川口に熱視線が注がれている。

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