埼玉新聞

 

<県民の日>経営知識ある乃木坂46新内眞衣さん、埼玉の偉人「渋沢栄一」に驚き 大河ドラマ館行きたい!

  • 埼玉応援団(コバトン倶楽部)の乃木坂46・新内眞衣さん(埼玉県出身)

  • 公益財団法人渋沢栄一記念財団・渋沢史料館館長 井上潤さん

  • 「埼玉の偉人、渋沢栄一」を学ぶ乃木坂46・新内眞衣さん

 来年のNHK大河ドラマや、2024年の新1万円札の顔として話題の「渋沢栄一」。約500社の企業を育て、約600件の社会公共事業に関わり、「日本資本主義の父」と評される埼玉の偉人だが、具体的に何をした人物か答えられない人も多いはず。今回は、埼玉応援団(愛称コバトン倶楽部)のメンバーで、乃木坂46の新内眞衣さん(埼玉県出身)と渋沢栄一研究の第一人者、井上潤渋沢史料館館長の対談が実現。渋沢栄一の残した功績や人物像について学んでいこう。

■日本資本主義の父

 新内 いまこのタイミングで「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一さんが注目されているのはなぜですか。

 井上 2024年に新1万円札の顔になることが決まり、また、来年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公にも選ばれてから急激に世間から脚光を浴びるようになりました。これまで渋沢栄一が注目される時って、わりと世の中が不安定な状況のことが多いんです。倫理観など人として正しい道を歩むことを説いた栄一の精神が取り上げられる頻度は、そういった時代のバロメーターにされることが多い。今回は純粋に明るい話題で国民から注目され、とても有意義なことだと思います。

突然ですが、新内さんは企業のCSR(社会貢献活動)って言葉を聞いたことはありますか。

 新内 はい、最近よく耳にします。

 井上 日本で社会貢献活動をした人物を探っていくと、その先駆者が、まさに渋沢栄一なんです。栄一が生涯、何らかの形で関わった企業・団体の数は約500社。社会公共事業は実に600件に及びます。

 新内 びっくりです。そんなに多いとは思いませんでした。両方を合わせると1千件以上ですね。

■世の中の幸せ願う

 井上 はい、栄一は経済界のみならず医療、福祉、教育など様々な分野に貢献した人物なんです。当時では91歳というとても長生きしましたから、結果的に色んな事業に関われたってことかもしれませんが、ただ、栄一は会社一つひとつを自分の利益のために独占しなかった。

まずは産業自体を世の中に幅広く定着させて、事業を永続させることが一番の目的でした。だから自分自身の生活が豊かになることは、ほとんど考えなかった。むしろ、世の中全体が豊かになることを誰よりも望んでいたと言われています。

いま不況や度重なる自然災害、また新型コロナウイルスなど感染症の流行でとても厳しい時代です。そういった世の中に一筋の光を差し込んでくれる強いリーダー像、現代人はそれを栄一に重ね合わせているのかもしれません。

■あの有名企業の設立も

 新内 先ほど、渋沢さんは500もの企業に関わったとお話しされましたが、具体的にはどんな企業の設立に関わったんですか。

 井上 栄一がまず最初に手掛けたのが銀行。とにかく産業を振興させるためにはお金の流れをしっかり作って、金融の基盤を確立させなければいけない。そう考えました。

 新内 私も何かで「みずほ銀行」って聞いたことがあります。

 井上 そう。良く知っていますね。当時、「第一国立銀行」と言って、国立銀行条例に基づいて設立されました。総監役(今でいう頭取)という一番トップの立場で会社全体を取りまとめていたようです。

その次に着手したのが製紙業。栄一は幕末にフランスに渡り、「新聞」という新たな情報ツールに出会い、強い関心を示したと言われています。

前日に国王(皇帝)が話したことが翌日に記事として紙面に載っている、しかも各家庭に配られている。「こんな素晴らしい情報ツールは日本にはない。これは日本の文化度を高める大元になるのではないか」と。そこで日本でも西洋紙(新聞用紙)を作ろうと思ったわけです。それを全国各地に広げるため、工場用地として選んだのが、いま私たちの史料館がある東京都北区王子(地区)です。

 新内 それって「王子製紙」ですね!

 井上 現在の「王子ホールディングス」ですね。ほかにも「JR東日本」や「日本郵船」、それから「東洋紡」とか「東京海上日動火災保険」などの設立にも栄一が関わりました。

 新内 どこも一度は聞いたことがある有名な企業ばかりですね。

■娯楽・文化発展にも寄与

 井上 少し変わったところで言えば、「帝国ホテル」や「帝国劇場」にも関わった。

 新内 劇場もですか。

 井上 はい。人々が豊かな生活を送る上では娯楽は欠かせない。また、海外からのお客さまを迎えるためには安心安全な宿泊施設を作らなければならないと(栄一は)考えました。もう一つ、意外性のある企業名を挙げるとしたら、現在の「日本経済新聞社」。残念ながら「埼玉新聞社」さんの設立には関わっていません(笑)。

 新内 いま、私たちの身の回りにあるものの製造元をたどっていけば、ほぼ渋沢さんが立ち上げた会社と何らかの関わりあいがありそう。

 井上 そうですね。少し言い過ぎかもしれませんが、新内さんの考えがあながち間違っているとは言い切れません。

元をたどれば、これもか、これもかって。ひょっとしたら、栄一が世間から注目されない要因は、様々な分野に関わりすぎて、何が栄一の功績なのか、パッと頭に思い浮かばないからかもしれません。

■人財育成と卓越した先見性

 新内 私は大学で経営学を専攻していたので、渋沢さんの経営手腕やメソッドに大変興味があります。井上館長は何が最も優れていたと思いますか。

 井上 栄一が事業を立ち上げる際、いつも大切にしていたのが、決して自分一人だけのために進める事業ではないということ。常にそのことを念頭に置いて、世のため、人のため、「公益」をすべての根幹に置いていました。

そして会社経営する上で、一番大切にしていたのが「人財」。特定の人物がずっと経営を続けられるわけではないので、事業を受け継いでくれる人をいかに育成するか。優秀な経営手腕を振るえるリーダーだったり、実務を完璧にこなすスタッフだったり、投資してくれる企業(人物)など、そういった人と人とのネットワーク作りにも長けていたと思います。

それに加え、先々を見通す「先見性」。当時の経営者は数字ばかりで職場環境の改善には全く目もくれませんでしたが、栄一は違った。その会社で何年働けばどういう立場になるのか、給与体系や退職金支給といった今では当たり前の制度にもいち早く着手しました。

それが人々の労働意欲につながり、結果的に会社の業績が上がって、その産業全体が発展する。栄一は驚くほど日本の将来を考え、未来を見据えていたんだと思います。

ただ、すべての事業が順調にいくとは限らない。苦しい局面に立たされても、それを耐え抜く力が経営者には必要であると。それを栄一は「絶大なる忍耐力」と表現していますが、会社経営の必須条件ですね。

 新内 今の時代では当たり前になった福利厚生や退職金制度ですが、渋沢さんはまるで未来がこうなると予測していたかのようですね。

■日本経済の世話役

 新内 いま活躍されている日本人経営者の中で渋沢さんに匹敵する方はいますか。

 井上 経営理念という意味では稲盛和夫さん(京セラ、第二電電創業者)や松下幸之助さん(故人・松下電器産業創業者)などが挙げられますが、ただ、栄一と同じだったかは分かりません。また、現在の経営者の中には栄一以上に優れた経営手腕を持つ人財がいるかもしれませんし。でも栄一のように、会社経営だけじゃなく、日本経済全体の“世話役”としてここまで生涯を捧げた人物は後にも先にもいないと思います。

ここで、栄一について面白いエピソードを一つ。あるとき、栄一が立ち上げた事業を乗っ取るために、とある人物が送り込まれてきた。普通なら頭に来ますよね。でも栄一はその乗っ取ろうとした人物の才能でさえ何か社会に役立てられないかと、適材適所の役割を与えてしまうんです。

本当に経営の才覚というか、人を見抜く力があったんだと思います。

■現代人の生きるヒントに

 新内 渋沢さんは私の生まれ育った埼玉県を代表する偉人なので、そんな渋沢さんがいま世間から脚光を浴びていて、とても光栄です。渋沢さんが残した著書「論語と算盤(そろばん)」の中で、現代の日本人が知っておくべき言葉は何かありますか。

 井上 栄一が記した「論語と算盤」は、新内さんのような若い世代の方にこれからの時代を生き抜く術(すべ)を学んでいただける本だと思います。全90項目にまとめられ、どこを読んでも参考になる言葉ばかり。今回、その中の2つを紹介しましょう。

まず一つ目は『日々に新(あらた)にしてまた日に新なりは面白い、すべて形式に流れると精神が乏しくなる、なんでも日に新の心懸(こころがけ)が肝要である』。これは、日々決められたことを機械的にこなすのはあまりにも面白くない。毎日新たな気持ちで新しいことにチャレンジしよう、ということです。

 新内 うわー、めちゃくちゃ心に響きますね。

■真心と相手を思いやる心

 井上 そしてもう一つ。先ほどから何度か出ていますが、栄一が最も伝えたかったのは「個人の豊かさは、すなわち国家の豊かさだ」ということ。いくら自分だけが利益を得ても、世の中全体が疲弊していたら、その利益は(世の中で)充分に活かしきれない。そういう意味で「公の利益」を第一に考えよう、と皆に問いかけているんです。それは論語の言葉にもある「忠恕(ちゅうじょ)の精神」そのもの。まず、自分よりも相手の気持ちを考えて行動しましょう、ということです。

 新内 その気持ち、よく分かります。私たちはエンターテインメント業界にいるので、衣食住と違って必ずしも生活に欠かせないものではない。だから私もファンの方にはまずは自分の生活を大切にしてほしい。その上で私たちに会いに来てくれるのなら全力でお迎えする、という気持ちで日々活動しています。

■社会のオーガナイザー

 新内 ところで、井上さんのいらっしゃる「渋沢史料館」は今月19日にリニューアルオープンされるそうですね。貴重な資料がたくさんあると思いますが、今回のリニューアルに際して一番の見どころは何ですか。

 井上 当館では長年の調査研究の蓄積や新しい資料の発見で、新たな渋沢栄一像を皆さまにお届けできるよう様々な企画を考えています。新型コロナの影響でリニューアルが約7か月半延びてしまいましたが、これまでお見せできなかった渋沢栄一の生前の姿を動画で随所にてご覧いただけるようになりました。また、栄一が一年ごとにどんな事業に取り組んだのかひと目で分かるよう新たな手法で展示します。

新1万円札に決定したときは、ニュースで日本を代表する実業家と紹介されていましたが、栄一は単純に実業家の枠ではくくれない、社会のオーガナイザー(多くの人を集め、組織を作り上げる人)。その姿をぜひ感じ取ってもらいたいです。

■渋沢関連事業、続々と

 新内 これまで渋沢さんが注目されて来なかったのが本当に不思議。今後、埼玉県としても色々盛り上がりそうですね。ほかに渋沢さんに関する話題はありますか。

 井上 いま渋沢栄一の関連事業について、いくつかプロデュースの相談を受けておりますが、栄一の出身地である深谷市にはNHKの大河ドラマに関連して「大河ドラマ館」が誕生します。この施設にはドラマ撮影で使われた衣装などが展示されるほか、ドラマをより楽しめる展示物や企画等の準備も進めています。渋沢栄一で映画を撮りたいなんて話もあるんですよ。栄一の姿を通じてたくさんの方の心が豊かになってほしいと思います。

 新内 今年から来年にかけては、さまざまな渋沢さんとの出会いを通じて、人間として大きく成長できる“学びの季節”になりそうですね。

県民の皆さまにも渋沢史料館など渋沢さんゆかりの場所を訪れてほしいですし、私もぜひ足を運びたいと思います。

今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。

■新内眞衣さん

 しんうち・まい 1992年1月22日生まれ。埼玉県出身。2013年3月から乃木坂46の第2期生として活動を開始。5年前から埼玉応援団(コバトン倶楽部)のメンバーに加入。「乃木坂46のオールナイトニッポン」(毎週水曜深夜1:00~3:00、ニッポン放送)では、埼玉ネタ満載でリスナーを楽しませている。愛称は「まいちゅん」。身長165cm、血液型はB型。

■井上潤さん

 いのうえ・じゅん 1984年、明治大学文学部卒業後、渋沢史料館の学芸員となる。その後、同学芸部長、副館長を経て、2004年から現職。渋沢栄一研究の第一人者として現在、企業史料協議会監事、(公財)埼玉学生誘掖会評議員などの要職も務める。著書に「渋沢栄一~近代日本社会の創造者(日本史リブレット人085)」(山川出版社)、「渋沢栄一伝~道理に欠けず、正義に外れず」(ミネルヴァ書房)など。

 

※11月11日付、本紙第2部「埼玉県民の日特集2020」から転載

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