埼玉新聞

 

雪舟の生涯に迫る 三郷の古林さん小説出版 今年で生誕600年、謎多い足跡 作品の読みどころは

  • 5年ほど前から執筆を始め、約半年で書き上げた小説「天開の図画楼-雪舟等楊御伽説話」と古林青史さん

 日本の水墨画を革新し、画聖とたたえられる画僧雪舟。その生涯をつづった小説「天開の図画楼-雪舟等楊御伽説話」を、三郷市の古林(ふるばやし)青史(あきふみ)さん=ペンネーム=(63)が刊行した。謎の多い雪舟の足跡について綿密な調査を重ね、事実を書き込む一方、未解明の部分はファンタジーを織り交ぜた。「謎の部分と事実の部分、虚と実がどうつながるかを楽しんでほしい」と古林さん。今年で生誕600年を迎えた雪舟を見直すきっかけにもなれば、と語る。

 雪舟は1467(応仁元)年、遣明船の随行絵師として明の時代の中国に渡り、現地の芸術に触れた。帰国後は山口県を拠点に各地を訪れ、多くの作品を残した。

 古林さんによれば、雪舟は日本絵画史の中でも特異な存在。混とんとした室町時代の画壇にあって「非常に積極的に中国の画法を取り入れた」という点で独自の歩みを刻んだ。「最先端の絵画を求めて中国に渡り、自ら取り入れて実践したという強烈な自負があったのではないか」

 小説では、中国宮廷の絵画制作機関である図画院副院長の長有声が秘術を使い雪舟の体に入り込む。中国画壇の現状に絶望していた長有声は、自ら培った経験と知識、技術と思想を雪舟に全て授けることで、絵画の神髄を究めようとしたのだった。

 雪舟は体内に宿った“師の声”と対話しながら自分の芸術を高めていく。師弟となった2人の語らいを通し、芸術の在り方、さまざまな絵画表現や技法、中国絵画の歴史を概観できるのも楽しい。

 これといった家柄もない庶民の立場で画僧を目指し、独自の高みに到達した雪舟。作品の多くは国宝や重要文化財となっている上、「雪舟庭」と呼ばれる庭園にも及ぶ。

 古林さんは「雪舟がどのように成長していったのか。その軌跡となる事実と謎の部分をどうつなぐか。それがこの作品の読みどころ」と話す。

 A5判、360ページ。税込み1760円。問い合わせは、埼玉新聞社出版担当(電話048・795・9936)へ。

ツイート シェア シェア