埼玉新聞

 

焼き鳥ではなく「やきとり」…豚カシラ肉と長ネギの串に辛みそたれ 1本で酒のつまみに 東松山のやきとり

  • 辛みそだれをたっぷりつけた桂馬のやきとり

    辛みそだれをたっぷりつけた桂馬のやきとり

  • 炭火でやきとりを焼く青木豊=埼玉県東松山市新明町の桂馬

    炭火でやきとりを焼く青木豊=埼玉県東松山市新明町の桂馬

  • 辛みそだれをたっぷりつけた桂馬のやきとり
  • 炭火でやきとりを焼く青木豊=埼玉県東松山市新明町の桂馬

 「はい、いらっしゃい」。午後5時の開店とともにのれんをくぐると、すぐに店はお客さんでいっぱいになる。「やきとり1本で疲れも吹き飛ぶんだよ」と会社帰りの常連客。ここは東松山。「名物は?」と聞かれると真っ先に出てくるのが「やきとり」だ。

 東松山市神明町のやきとり店「桂馬」は、連日にぎわう人気店。創業は1957年。高木菊乃が娘の桂子と始めた白モツ店が始まり。午(うま)年の桂子が「桂馬」の由来だ。一時閉店後、桂子が青木萃美(すいよし)(83)と結婚し再開した。以来、家族で経営している。東松山焼鳥組合の組合長を務める萃美と事務局長の長男豊(59)が丁寧に焼くやきとりは「とにかくおいしい」と評判だ。

 東松山のやきとりは、鶏肉ではなく、豚のカシラ肉(ほほと、こめかみの部分)を使う。長ネギとともに串に刺して焼き、辛みそのたれをハケ(ヘラ)でつけて食べるのが東松山流だ。

 「肉は赤身だけでも脂身だけでもよくない。バランスよく串に刺すことが大切」と豊は言う。炭火でじっくり焼いて余分な脂を落とすことで、肉を縮めずジューシーに仕上げる。串の刺し方も焼き加減も熟練の技が必要。ネギは深谷ネギ。やわらかく甘いため、肉との相性が抜群だ。

 みそだれは、店によって異なる秘伝の味。桂馬では、白みそをベースに唐辛子やニンニクなど10種類以上のスパイスをブレンドして作る。豊がみそだれ作りを任されるようになったのは7年目から。現在も季節や天候に合わせて工夫を重ねている。

 サイドメニューもそろえているが、豊は「東松山のみそだれやきとりは、これ1本で酒のつまみにすることが原始の形。そこにこだわりたい」と言う。

 お客さんの食べ具合を見計らって、焼きたてのやきとりを出してくれるのも東松山流。カシラの後にはレバー、タン、ハツなども注文したい。どれもみそだれと合う。ビールも良いが、ここは桂馬のこだわりの日本酒で。

 週末の夜、妻、息子夫婦と孫の5人で来ていた50年来の常連の男性客(69)は「以前は一人だったけど、今は家族で来ている。何年食べても飽きない味」。こんな3世代にわたる常連も珍しくない。別の会社員の男性(59)は「ここに来ると今週も頑張ったって思えるんですよ」と笑う。やきとりで疲れを癒やし、翌週に向けてエネルギーを満タンにして帰っていく。

 やきとりは東松山の人たちの活力の源、ソウルフードなのだ。
 (敬称略)

屋台での提供が発端

 現在、東松山市内のやきとり店はテイクアウト店を含め41店舗。店主の高齢化、後継者不足などで、ここ数年は40店舗前後で推移している。

 「広報ひがしまつやま」(2006年3月1日号)によると、東松山で豚肉のカシラ肉が食べられるようになったのは昭和30年代。滑川町にあった食肉センターから安価で新鮮なカシラ肉を手に入れ、屋台で焼いて出したのが始まりといわれている。

 みそだれのルーツは大松屋。戦後間もなくは寄居町でホルモン焼きの屋台を営業していた。カシラ肉を使い始めた頃から、朝鮮半島出身の店主が故郷の料理を思い出し、甘だれに辛みそを入れることを考案した。その後、東松山市内で大きな工場の建設が始まり、好景気を見込み東松山に移転。辛みそ文化が市内に流入し、既に開店していたやきとり店も、みそだれを独自で作るようになり、やがて定着した。

 1962年には若松屋を中心に、当時営業していた7店舗で東松山焼鳥組合を結成。目的は肉の安定供給、価格協定など。このころの値段は1本5円だった。現在は21店舗が加盟している。

 市観光協会では「やきとりマップ」を作成。商工会か焼鳥組合に所属の店舗の情報が掲載されている。

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