【連載】さいたま市の英語教育 正確さより意欲重点 「自分の世界がちょっと変わる」
公立学校の週5日制完全実施など「ゆとり教育」による改革が始まった2002年、文部科学省は「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」を策定。国際理解教育の一環で小学校の「総合的な学習の時間」の中で英語活動が広がり始めた。
英語を教えることを想定していなかった小学校教諭の間では戸惑いも見られ、導入状況は学校によってばらつきが生じていた。全校で実施できる体制を整えようと、さいたま市が取り組んだのが小・中一貫の英会話カリキュラムの作成だった。
■国際社会で通用する力を
「打診が来た時は飛びつきました」。事務局長としてカリキュラムの作成に携わった市教育委員会の利根川恵子さん(76)は語る。
元高校教諭だが、市長部局で国際交流事業に携わり、国際会議の通訳も長年担当してきた。その中で英語力以前に論理的に話すことが苦手な日本人を数多く目にし、「国際社会で認められるためには、論理的な思考や表現力が重要。英語はそれらを学ぶために適したツール」と考えた。
04年までに「小学校英語活動の指針」を作成し、05年にさいたま市小・中一貫の教育特区「潤いの時間」が認可された。「英会話」研究指定校での授業が始まり、子どもたちの反応を基に専門家や担当教諭らでつくるワーキンググループ内で検討を重ねた。
ついに完成した市独自のカリキュラム。その評価基準は「英語を正しく話せること」ではない。積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲、相手のメッセージを正しく理解した上で自分の考えを的確に伝える力に重きを置き、アクティビティでは意思決定の場面を多く取り入れた。
■自分の世界が変わる
07年度に全市立小・中学校で英会話の実施が決まると、「授業準備が大変」「大学卒業以来、30年近く英語に触れていない」といった懸念の声も多く上がった。利根川さんらは校長や教頭、主任教諭らに、カリキュラムの存在やアシスタントの配置などを丁寧に説明し、理解を求めた。
厳しい船出となった英会話だが、始まって間もなく反応は変わる。歌やゲームも交えながらコミュニケーションを重視した授業に児童らは夢中。普段は発言しない子が英会話の時間は意欲的にしゃべったり、グループワークで助け合ったりとの報告がぽつりぽつりと上がり始めた。児童の生き生きとした姿を見て、英語に慣れない教諭らも積極的に取り組むようになっていった。
「英語の活動は、子どもや先生にとって、自分の世界がちょっと変わるということなんですよね」。利根川さんは笑顔を見せる。
■充実した指導体制
英会話は16年度に「グローバル・スタディ(GS)」と名称を変え教科となり、現在に続く。充実した指導体制は強みの一つだ。
市教委によると、GSのみを教える「専科教員」の採用を18年度に始め、現在は93校に88人を配置。最近は他県からの志望者も増えている。ALT(外国語指導助手)採用では面接やテストを実施、英語力やコミュニケーション力を見極めている。さらに、多種多様な教員研修会やALTミーティングを実施し、指導力向上にも力を入れる。
教員研修などを担当してきた、埼玉大学教育学部の及川賢教授は「他の地域よりも授業時数が多く、ALTを含めて質の高い人材が集まっている。そこに予算を充てられることも大きく、好循環が生まれている」と分析する。












