埼玉新聞

 

バス運転手不足の現場へ…記者が大型バスを運転体験 全長10メートル超の巨体に言葉失う 内輪差に苦戦しながら知った、地域の暮らし支える運転手の凄さ

  • バスの運転を体験する参加者=上尾市の東武バスウエスト上尾営業所

    バスの運転を体験する参加者=上尾市の東武バスウエスト上尾営業所

  • 研修の録画映像。ディスプレー中央下の小さな丸が運転手の視点を示している

    研修の録画映像。ディスプレー中央下の小さな丸が運転手の視点を示している

  • バスの運転を体験する参加者=上尾市の東武バスウエスト上尾営業所
  • 研修の録画映像。ディスプレー中央下の小さな丸が運転手の視点を示している

 働き方改革に伴う2024年4月の法改正により、バス運転手の不足が深刻な問題となっている。県交通政策課の試算では30年度に県内で778人の不足が見込まれ、バス事業者は待遇改善や免許取得支援など、人材確保の取り組みを進めている。大きなバスを操り、地域の足を支える仕事。その魅力を本紙記者が体験した。

 4月中旬、上尾市小敷谷の東武バスウエスト上尾営業所を訪ねた。体験会には筆者と県バス協会職員が参加し、東武バス運輸部の山崎俊明課長と島田邦保課長補佐が指導役を務めた。研修・教導の制度について説明を受けた後、出番を待つバスや役目を終えたバスが留置されている敷地内を歩き、使用する車両の下に向かった。

 全長約10・5メートルの大型バスを見上げ、思わず息をのむ。乗り慣れた軽自動車とは比較にならない存在感だ。さまざまなデジタル機器を搭載した東武バスの「2代目 運転訓練車」。新人研修や定期研修でも使用され、運転手の癖や衰えなどが客観的にデータで示される。

 ホイールベース(前輪と後輪の距離)が長く、旋回時に後輪が前輪より内側を通る内輪差、後方部が大きく振り出すオーバーハングなどの特性を学び、「頭の後ろから10メートルの物干しざおが伸びているイメージ」と教わった。

■タイヤの位置感覚

 眼鏡型の装置を着用し、運転中の注視点や視線移動を客観的に分析するアイマークレコーダー(視線追跡装置)を設定して、運転席に座った。乗降用のドアをスイッチで開閉する。前扉は左を向けば目視できるが、中扉の足元は鏡に映る鏡を注視する必要があり、神経を使った。

 フットブレーキを踏みながら、ギアをニュートラルからドライブに切り替える。手元の駐車ブレーキを引っ張りながら持ち上げて解除。免許取得の際に教習所で初めて車に乗ったときよりも慎重にアクセルを踏んだ。島田課長補佐の指示に助けられながら、車庫を5分ほど周回し、運転訓練コースに向かった。今思えば、この間にもっとタイヤの位置の感覚をつかんでおくべきだったが、バスが動き出した途端、サイドミラーを見る余裕を失っていた。

 ポールとパイロンの間を抜けていくS字カーブでは、ハンドルを切るのが早く、後輪が白線を越えてしまった。続くL字カーブでは前方をせり出させて曲がるイメージを膨らませていたが、どうしてもハンドルの切り始めが早いようだ。歩道に切り込む形のバスベイ型停留所に停車し、気持ちを切り替えて逆方向からの2度目に挑んだ。

■最低限を見極める

 L字カーブで右側のポールにぎりぎりまで寄せ、ゆっくりと左折した。「この速度最高ですね。完璧ですよ」と島田課長補佐。完全にたまたまだったが、褒められて調子に乗った。2回目のS字もハンドルを切り過ぎ、ICレコーダーには失意に沈む筆者の声が録音されていた。

 約15分の運転中に「それ以上(ハンドルを)切らなくていいです」と8回言われていた。最大限の2回転半までハンドルを回すことはほぼないそうだ。切れば切るほど、内輪差もオーバーハングも大きくなるため、必要最低限のハンドル操作と切り始めるタイミングを見極めることが神髄なのだろう。

 歩行者や自転車への細心の注意、定刻通りの運行、そして乗客の安全という重責。大きな車体を滑らかに操り、地域の生活を支える。ハンドルを握る運転手の仕事に、これまでとは違う敬意を持って、その大きな背中を見送ることになりそうだ。

 ◇ ◇

 「もし可能ならば、バスを運転して、発信してもらえませんか」。地域公共交通に関するインタビュー後、東武バスウエストの金井応季社長から提案を頂いた。

 一瞬頭をよぎったのは、今年41歳になる筆者が行くべきか、20代の若手を行かせるべきか。厚生労働省の24年賃金構造基本統計調査によると、バス運転手の平均年齢は55・0歳。40~50代での転身も珍しくないのだ。

 金井社長は「運転訓練車を活用して手厚い教育を行っている。ぜひとも安心して業界に飛び込んでほしい」と呼びかけた。

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