人命、経済に深刻な懸念 安全再構築へ議論加速/八潮の道路陥没事故(上)
1月28日に八潮市の県道交差点で発生した道路陥没事故をはじめ、2025年は上下水道管路の老朽化に起因する事故が全国各地で多発した。人命や経済活動に深刻な影響を与える懸念を顕在化させ、安心・安全なインフラを再構築するため、未来を見据えた議論が加速している。
国土交通省が設置した対策検討委員会は12月1日、第3次提言「信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換」を金子恭之国交相に手渡した。新たな道筋のポイントに「メリハリ」と「見える化」を挙げ、双方とも二重の意味を持たせた。
「メリハリ」は、事故時の影響が大きい箇所への点検・調査の重点化と、地域の将来像を踏まえた維持すべき施設の最適化。「見える化」は担い手に向けた診断基準の明確化や技術の高度化と、使用料負担などの理解を得るための国民に向けた発信だ。
8月に行田市で下水道管点検作業中の作業員男性4人がマンホールに転落して死亡した事故では、国の基準値(10ppm以下)の15倍を超える硫化水素濃度が検出された。市町村が管理する公共下水道の多くは、維持管理を民間メンテナンス業者に委託している。監督する自治体職員は突発的な事態の対処や見積もりの適正判断に知見を求められる一方、職員数の減少により伝承は難しくなっている。
県下水道公社が12月12日に行った現場体験型実務研修には、草加、八潮、秩父の3市から職員6人が参加。マンホールのふたの開閉やガス検知器を用いた管路内の作業環境測定などを学び、八潮市下水道課の男性職員(40)は「点検には危険も伴うが、市民の安心には不可欠」と使命感をにじませた。
下水道点検の安全性と効率性を高める技術には高い関心が寄せられ、NTT東日本埼玉事業部が11月に開催した体験会には、自治体職員やインフラ事業者ら約70人が参加。最新ドローンや人工知能(AI)解析を用いて点検、診断、管理までを一貫して支援する仕組みを紹介した。
流量などの理由から立ち入りが難しい環境での点検を実現する閉鎖空間点検ドローン「ELIOS3」の価格は1千万円前後が目安とされる。設備投資は事業者の経営判断だが、いずれ料金に跳ね返る管理・修繕・更新コストの合意形成には、住民への丁寧な説明が求められる。
八潮市の陥没事故の工事や補償に充てられた県の予算総額は現時点で278億7100万円。そのうち国庫補助金は45億円にとどまる。県議会の特別委員会で県下水道管理課の担当者は「国の方針で整備が推進されてきた背景を踏まえ、引き続き国に財政措置を求めていく」と説明した。
大野元裕知事は7月の全国知事会議で「適切な点検の頻度や手法にとどまらず、更新の手法確立、耐用年数の検討は不可欠」と指摘。「更新の費用を受益者負担としていいのか、国民的議論が望まれる」と訴えるなど、事故の教訓を踏まえた問題提起を続けている。
■八潮の道路陥没事故 1月28日午前9時50分ごろ、八潮市の県道松戸草加線中央一丁目交差点内で道路が陥没し、トラック1台が転落した。車内に取り残された男性運転手(74)は5月2日、下水道管内で見つかり死亡が確認された。陥没箇所には1983年に供用開始された下水道管が通り、関係する12市町に対する時限的な下水道の使用制限や未処理水の緊急放流も行われた。









