埼玉新聞

 

危険運転の成立が争点 当時18歳の男、酒気帯びで逆走、時速125キロで交差点に進入して車と衝突 車運転の男性を死亡させる 埼玉・川口の逆走事故 さいたま地裁であす19日判決 「全国的にも注目される判例となる」

  • 死亡事故が発生した現場。被告の車は手前から奥に向けて、一方通行道路を逆走し、被害者の車に衝突した=3月、川口市仲町

    死亡事故が発生した現場。被告の車は手前から奥に向けて、一方通行道路を逆走し、被害者の車に衝突した=3月、川口市仲町

  • 死亡事故が発生した現場。被告の車は手前から奥に向けて、一方通行道路を逆走し、被害者の車に衝突した=3月、川口市仲町

 川口市で昨年9月、酒気を帯びた状態で一方通行道路を乗用車で逆走し、車に衝突させて運転手の男性を死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)などの罪に問われた中国籍の当時18歳の少年(19)の裁判員裁判の判決が19日、さいたま地裁で言い渡される。弁護側は危険運転致死の成立の可否を争っており、司法判断が注目される。

 起訴状などによると、被告は昨年9月29日、酒気を帯びた状態で川口市内で乗用車を運転し、一方通行道路を逆走した上で、制御困難な時速125キロで交差点に進入。会社役員の男性=当時(51)=が運転していた乗用車と衝突し、外傷性大動脈解離により死亡させたとされる。

 被告は事故当日、自動車運転処罰法違反(過失傷害)などの容疑で現行犯逮捕された。さいたま地検は現場道路が二輪車を一方通行から除外しているため危険運転致死の条件から外れるなどとして同法違反の過失致死罪で起訴。その後一転し、今年3月に危険運転致死罪へ訴因変更を請求して認められた。

 危険運転致死傷罪は2001年の改正刑法で新設。飲酒や高速度の運転、信号無視などのうち、悪質な運転を故意犯として罰する。最高刑は過失致死傷罪は懲役7年、危険運転致死傷罪は懲役20年と差が大きい。現行法では飲酒や速度の明確な基準がなく、危険性の高い運転でも危険運転ではなく過失致死が適用される場合があり、見直しを求める声が上がっていた。

 法務省は昨年から、法改正に向けた動きを加速。法相は今年2月、同罪の要件見直しを法制審議会に諮問した。

 これまでの公判では、被告の運転が危険運転致死罪の類型である「制御困難な高速度」「妨害目的」に当てはまるかが争点となった。検察側は「制限速度30キロの道路を制御困難な時速125キロで運転し、相手に回避措置を取らせるつもりで運転していた」と主張し、危険運転致死罪で懲役9年、予備的に過失致死罪で懲役6年を求刑した。

 弁護側は「被告は真っすぐ走っており、制御困難ではなかった。交差点にも気付いておらず、妨害する意図はなかった」と危険運転致死罪は成立しないと主張している。

 交通犯罪に詳しい東京都立大学の星周一郎教授は「危険運転致死罪は類型が厳格に定められており、当てはまりそうで当てはまらない事故が多い。制御困難だと言えたとしても、事故との因果関係が立証できるのか」と指摘。妨害目的はあおり運転など、認識している対象物を妨害する際に適用されるものだとして、「特定の車をターゲットにした事故ではないことから、妨害の目的があったとは言えないのではないか」と語った。

 大分県では、21年に当時19歳の少年が時速194キロで車を運転し、死亡事故を起こし、制御困難状態にあったとして、裁判で危険運転致死罪が認定された。元検事で危険致死傷罪について研究している昭和医科大学の城祐一郎教授はこの事故の判例を踏まえて、「時速125キロで制御困難と認められるのは判例からして難しいが、優先道路と交差する交差点に時速125キロで進入していることから妨害目的は認められるのでは」との見解を示し、「全国的にも注目される判例となる」とした。

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