埼玉新聞

 

深刻な人手不足…介護現場の負担軽減へ 要介護者を見守る測定システム開発 埼玉県内の介護施設も導入 おむつ内の排せつや排尿量など検知、夜間の見守りが効率的に

  • 「フィンガルリンクコネクト」(手前の機器)とパソコン上で介護者の状態を確認する担当者

    「フィンガルリンクコネクト」(手前の機器)とパソコン上で介護者の状態を確認する担当者

  • システムを導入して意見交換する介護職員ら
  • 「フィンガルリンクコネクト」(手前の機器)とパソコン上で介護者の状態を確認する担当者
  • システムを導入して意見交換する介護職員ら

 介護現場の職員の負担を軽くするため、情報通信技術(ICT)を活用してプライバシーに配慮しながら要介護者の安全や状態を見守る測定システムが、開発された。自動車の衝突防止機能などに使われている非接触型の「ミリ波」レーダーセンサーによって、既存の機器では難しい呼吸の微細な変化や体の振動まで捉える。呼吸や体温、脈拍などばかりではなく、おむつの排尿や排せつ量もキャッチする。介護現場では人手不足が深刻になっており、開発した事業者は「効率的な見守りによって、介護職員の負担を軽減し、介護の質向上や離職防止につなげていきたい」としている。

 「フィンガルリンクコネクト」というクラウド型バイタル(生体信号)測定器で、ユーウェブ(北九州市)とフィンガルリンク(東京都)が約3年の実証実験を経て、共同開発にこぎ着けた。

 フィンガルリンクコネクトは縦10センチ、横10センチと小型で、はがきとほぼ同じ大きさ。ユーウェブによると、ミリ波レーダーは木材や布などの素材も透過する。カメラなどを設置することなく、ミリ波レーダーで体の動きや振動、呼吸や筋肉運動などを24時間キャッチ。プライバシーを保ちながら要介護者の体温、呼吸、心拍数、おむつ内の排せつ、排尿量など12の項目を検知する。

 室温も分かり、離床や就床、起き上がった状態になった際は1・8秒で感知する。測定されたデータはクラウドサーバーなどに送られ、要介護者の状態が約6・4秒おきに更新。遠隔で要介護者の状態が分かり、パソコンで管理できる。

 介護現場の人手不足は深刻な状況にある。厚生労働省の調べによると、全国の介護職員数は2023年度に初めて減少に転じ、212万6千人となった一方、高齢者数がピークとなる40年度には272万人が必要と見込まれている。埼玉県内も40年度には約14万人の介護職員が必要だが、約4万6千人不足すると見込まれている。ユーウェブの阿部勇会長は「人手の足りない介護現場では、要介護者の健康状態の測定や記録を付けることも職員にとっては大きな負担。サーバーで自動管理できることで、職員の業務そのものを見直すことができる」と話す。開発担当者は「可視化することで、要介護者とその家族、介護職員も含めて安心、安全を追求したい」としている。

 フィンガルリンクコネクトは1台42万円(税別、工事費などは別途)。

 問い合わせは、埼玉新聞社(電話048・795・9161)へ。

■効率高め、人材確保も 導入のクイーンズビラ桶川

 熊谷福祉の里(創業者・中村洋子氏)が運営する特別養護老人ホーム「クイーンズビラ桶川」(桶川市坂田)では、全120床にフィンガルリンクコネクトを設置した。埼玉県内での介護施設でフィンガルリンクコネクトを導入したのは、クイーンズビラ桶川が初めてという。

 7月上旬、同施設で介護職員とユーウェブの担当者との意見交換が行われた。介護職員は「スタッフルームに待機しながら、画面上で入居者の状態が一目で分かるのがありがたい。夜間の見守りが効率的になった。介護の現場は経験と勘に頼る部分があるが、おむつ交換など、しっかりとしたサインが示された上で対応できる」と話した。各入居者のデータは半年間保存される。

 介護の現場は、外国人介護士や短時間のアルバイトで勤務するケースなど、多様になってきている。ユーウェブの阿部会長は「介護される人が増えていくのに、介護する人が圧倒的に足りていない。最新技術を導入することで、介護現場が働きやすくなり、雇用の確保にもつながっていくのが理想」と話している

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