埼玉新聞

 

故郷埼玉に創作の核 銅版画家の山本容子さん デビュー半世紀で特集展 来月31日まで、さいたま市の県立近代美術館

  • 性別の違いを題材にカミソリを男女に色分けて描いたデビュー作について語る山本容子さん=さいたま市浦和区の県立近代美術館1階展示室

    性別の違いを題材にカミソリを男女に色分けて描いたデビュー作について語る山本容子さん=さいたま市浦和区の県立近代美術館1階展示室

  • 谷川俊太郎さんの詩「過ぎゆくもの―SL挽歌」をテーマに仕上げたステンドグラス=さいたま市大宮区の鉄道博物館

    谷川俊太郎さんの詩「過ぎゆくもの―SL挽歌」をテーマに仕上げたステンドグラス=さいたま市大宮区の鉄道博物館

  • 性別の違いを題材にカミソリを男女に色分けて描いたデビュー作について語る山本容子さん=さいたま市浦和区の県立近代美術館1階展示室
  • 谷川俊太郎さんの詩「過ぎゆくもの―SL挽歌」をテーマに仕上げたステンドグラス=さいたま市大宮区の鉄道博物館

 さいたま市(旧浦和市)生まれの銅版画家山本容子さんが、作家デビュー50周年を迎えた。県立近代美術館(同市浦和区)は8月31日まで、1970年代の初期作品を軸に特集展示を開催している。作家村上春樹さんらの書籍装丁、挿絵なども手がける山本さんの洗練、洒脱(しゃだつ)な作風の原点と、進化の軌跡が味わえる。

 会場に入ってすぐの部屋には、かつてマチスが秘蔵していたピカソの「静物」(44年、油彩)。左右に、山本さんが描いたマチス、ピカソのポートレートが飾られている。粋な遊び心が伝わってくる展示に、山本さんは「とても光栄。うれしいですね」と、凜(りん)とした立ち姿でほほ笑む。

 特集展示は、同美術館の所蔵品を紹介する「MOMASコレクション」の一環。「下絵は描かず、構図も決めない」山本さんのフリーハンドから生まれた約70点が、時代の変遷をたどる豊富な資料と併せて各ブースに並ぶ。同館副館長で学芸員の平野到さんは「山本さんの貴重な初期作品を、これだけまとめて鑑賞できる場は他にないはず」と胸を張る。

 京都市立芸大の学生だった当時、「刷り上がった線の美しさに心が躍って」銅版画の道を選んだ山本さん。75年、23歳のデビュー作は、カミソリの刃をポップに描いた「Papa's and Mama's」。身近な小物をモチーフにした、斬新でユーモラスな作品は話題を集めた。

 「でも、どんなに褒められても同じことはしたくない。繰り返しでは、語彙(ごい)が増えないでしょう?」。“読む絵”の画家、山本さんならではの言葉だ。

 79年に発表した版画集がきっかけとなり、山本さんは村上春樹さんが翻訳した書籍で挿絵などを担当。村上さんは、近刊でも「山本容子さんしかいない」と作画を依頼、信頼を寄せている。

 「埼玉には、私の50年の核があるように思える」と明かす山本さん。県内の自治医科大学付属さいたま医療センター(同市見沼区)は、患者や医療関係者らに安らぎをもたらす「ホスピタル・アート」の壁画作品をロビーに展示する。鉄道博物館(同市大宮区)では、山本さんが下絵を描いた大型ステンドグラス(縦3メートル×横12・7メートル)を常設。共に、銅版画とは違う魅力に触れることができる。

 「これからも時代を楽しみながら、変わっていきたいですね」と語る山本さんの、しなやかな挑戦と進化は続く。

 特集展示は、午前10時~午後5時半(最終入場は同5時)。観覧料一般200円、大高生100円。月曜休館(8月11日は開館)。

 問い合わせは、同美術館(電話048・824・0111)へ。

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 山本容子(やまもと・ようこ) 銅版画家。1952年、旧浦和市(現さいたま市浦和区)生まれ、大阪育ち。78年、京都市立芸術大学西洋画専攻科修了。

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