多胎家庭の孤立防ぎ支援の輪を NPO法人「さいたま多胎ネット」 行政と連携し充実図る 母親へのアンケートの結果、セルフチェックでうつ状態→7割に及ぶ 支援始めたきっかけは虐待事件
双子や三つ子を育てる多胎家庭の孤立を防ぎ、地域や社会とのつながりづくりを支援しようと、NPO法人「さいたま多胎ネット」(さいたま市)が2024年11月に設立された。本年度からは同市が主催する「ふたごの集い」にピアサポーターとして参画するなど、行政との連携も深め、さらなる支援の充実を目指す。
■多胎家庭の困難
1日18回の授乳に20回のおむつ替え、睡眠は細切れで計5時間―。多胎児を育てる母親の1日のスケジュールは過酷だ。多胎出産の場合は早産や低出生体重児の割合が高く、同ネット代表理事の花俣美加さん(51)は「おっぱいを吸う力が弱く1時間ごとに授乳が必要だったり、(予定日より)3カ月早く生まれると首が座るまでに6カ月かかったりすることもある」とその大変さを語る。子どもの発達に不安を感じたり、外出が困難で孤立してしまったりするケースも少なくないという。
同ネットが24年にインターネットでアンケートを実施したところ、回答した母親59人のうち、セルフチェックでうつ状態と判断されたのは軽度から重度まで合わせると約7割に及んだ。
■産前から知識を
多胎サークル「さいたまピーナッツクラブ」の代表として当事者の交流の場をつくってきた花俣さんが本格的な支援に乗り出すきっかけは、18年に愛知県で起きた虐待事件だった。三つ子を育てる母親が、そのうちの1人を床にたたき付け死亡させた。多胎育児の過酷さが注目されると同時に、多胎児を育てる母親らからは一定の共感を示す声も上がった。花俣さんは「サークル活動を始めて数年たっても参加者の悩みが変わっていないことが気になっていた。ここで動くしかないと思った」と当時を振り返る。
21年から多胎児を妊娠中の家庭を対象にファミリー教室の開催を始めた。内容は多胎児の妊娠出産に関する基礎知識や育児の経験談、地域の母子保健情報の紹介で、花俣さんは「産後は情報を取る余裕が全くない。産前に正しい知識や工夫を入れておくことで、その後の生活が変わってくる」と意図を語る。
より支援に力を入れるため、24年11月にNPO法人を設立。本年度からはさいたま市のふたごの集いにピアサポーターとして参画している。同ネットの理事らが参加者の悩みを聞いたり、自身の経験を伝えたりするだけでなく、悩みに応じて地域のサービスや支援につなげる役割も担う。今後は行政との連携をさらに深め、他の地域にも活動を広げていきたい考えだ。
■当事者が支える
時を経て、支援する立場になる人もいる。副代表理事の森田彩加さん(36)は22年から運営メンバーとして参加しており、「多胎の先輩ママとつながることで安心感をもらった。同じことをしたいと活動に加わった」と明かす。妊娠出産のタイミングでさいたま市に引っ越してきた理事の森里美さん(41)も「知らない土地でのワンオペ育児となったが、いろんな人に助けてもらった。今度は自分の番かなと思った」と語る。
ふたごの集いへの参画により、さらなる協力者が必要となったため、5月からピアサポーター養成講座を開始。これまでに4回開催し、かつてファミリー教室に参加してくれた人など16人がサポーターになった。花俣さんは「支援がずっと続いていくように、この輪が広がっていったら」と願う。










