<25参院選・争点の現場から>排水インフラ三重苦 職員、収入減少に老朽化/公共整備
参院選は後半戦に。物価高や公共整備、東京都との生活格差などの課題を、それぞれの現場から報告する。
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1月28日に八潮市で発生した道路陥没事故は、中川流域下水道の管路破損が原因と考えられ、復旧作業と原因究明が進められている。復旧工法検討委員会では、陥没現場の上流から下流の約2キロについて、5~7年をかけて新規管を通して複線化する案が示されているほか、破損した下水道管の復旧方法については、破損部分の管内に内径3メートルの新たな管を通し、既設管の破損していない部分には管内部をコーティングする管更生工法を採るとしている。
下水道の種類は、複数市町村の下水をまとめて処理し、都道府県が管理する「流域下水道」、家庭や工場などの排水を処理するために市町村が管理する「公共下水道」、市街地の雨水を河川に放流する「都市下水路」の三つに分類される。下水道事業を巡っては、全国各地の自治体が担当職員の減少、施設の老朽化、使用料収入の減少という三重苦の状況に直面している。
■市町に技術支援
公共下水道の多くは、維持管理を民間メンテナンス業者に委託している。業者を監督する県内市町村の下水道職員数は、定員割れなどによって1217人(2005年)から876人(24年)と3割近く減少し、知識や技術の承継が困難になっている。
県下水道公社(武井裕之理事長)では18年度から市町村支援担当を設け、本格的に県内の市町・組合へ技術支援を開始。武井理事長は「技術者そのものが増える状況は見通せない。今ある技術を集約して、しっかりと伝えていく仕組みを作っていく」と未来を見据える。
処理場・ポンプ場設備の効率的な運転や作業現場の安全管理、水質管理や設備更新に関するアドバイスなど、技術支援の項目は多岐にわたる。下水道公社の小久保賢一常務理事兼技師長は「突発的な事態に対処したり、見積もりの妥当性を確認するためにも身に付けるべき」と職員の知見を高める意義を強調する。
■「増える前提」
メンテナンスの高度化・効率化に向けた技術導入を後押しするため、国土交通省がまとめている「上下水道DX(デジタルトランスフォーメーション)技術カタログ」では、八潮市の事故でも活用された超狭小空間点検ドローンなどが目的・用途ごとに検索できる。管径や流量によって人が立ち入れない箇所の点検は、技術の進歩が安全に直結するものの、設備投資は事業者の経営判断も絡む。コストは利用料金にはね返るため、導入までの合意形成には時間がかかる。
埼玉の流域下水道は範囲が広く、流域下水道に限った処理水量規模の比較では、荒川水循環センターなどの処理場が全国上位を占める。武井理事長は「人口が増えていく前提で造られたインフラ。人口が減っていくときにどう整備していくのか、国の方向性が問われている」と議論の経過を注視する。
■持続可能なまち
国は汚水管の改築に係る国費支援に関して、管理と更新を一体的に民間事業者に委ねる「ウォーターPPP」導入の要件化を進めているほか、複数・広域・多分野のインフラを「群」として捉え、総合的かつ多角的な視点から戦略的に地域のインフラをマネジメントする「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」を推進している。
持続可能な開発目標(SDGs)に関する研究の第一人者で慶大大学院の蟹江憲史教授(政策・メディア研究科)は「インフラは改変の時期。気候変動の影響も考慮し、持続可能なインフラを考え直す必要がある」と、まちづくりの構想と合わせた議論の必要性を説いた。










