埼玉新聞

 

やけくそ、生きている意味あるのかな 別の高校を退学、通信制に入学も自宅にこもる日々 鶴ケ島清風に転入、1年で変わったエース 一度は諦めた野球…突き動かした強い思い「野球をしたい」

  • 無安打で5回を終え、仲間と笑顔で戻る松本悠河投手(左)

    無安打で5回を終え、仲間と笑顔で戻る松本悠河投手(左)=12日、アイ・スタ浦和

  • 無安打で5回を終え、仲間と笑顔で戻る松本悠河投手(左)

 12日にアイ・スタ浦和で行われた、夏の全国高校野球選手権埼玉大会2回戦の鶴ケ島清風―埼玉栄。2―3で敗れたものの、鶴ケ島清風のエース松本悠河投手が136球を投げ、被安打4の好投を見せた。一度は高校野球を諦めたが、「野球をしたい」という強い思いに突き動かされ、昨夏から新たなチームで再始動。接戦の立役者となった。「最後の夏に投げることができ、支えてくれた親やチームメートには感謝しかない」と語った。

 小学2年から野球を始めた松本投手。甲子園を目指して別の高校の野球部に入ったが、指導者や仲間とのコミュニケーションがうまくいかず、1年夏に退学。その後、通信制高校に入学したが、昼夜逆転の生活で自宅にこもる日々が続いた。「やけくそだった。生きている意味があるのかなと思ったこともあった」。甲子園の動画を見ては、「自分もここでやるはずだったのに」と悔しさやうらやましさが込み上げた。

 そんな時、キャッチボールに誘ってくれたのが中学時代の野球部の仲間で、鶴ケ島清風の桑原孝史主将だった。「一緒に野球をやろう」。キャッチボールのたびにこう声をかけてくれたが、迷う気持ちもあった。それでも最後は「野球をしたい」という気持ちが勝った。

 昨年7月に同校に転入し、野球部に所属。福森大地監督は、松本投手について「朝の自主練習に加え、全体練習後も『自主練習してもいいですか』と聞かれるほど、放っといたら練習する子。(体を壊さないように)こちらがブレーキをかけることも多かった」と振り返る。しかし、そんな姿に触発され、一緒に自主練習をする部員が増えていった。少しずつ仲間とコミュニケーションが取れるようになったことで、松本投手の気持ちにも変化があった。「初めは『速い球を投げたい』と思っていたが、『チームのために投げたい』という思いが強くなっていった」

 12日の試合では、スピードのある直球や多彩な変化球を武器に、わずか4安打で8回を投げ切った。スタンドから見守っていた母里美さん(58)は、息子が何度も後ろを振り返って仲間に声をかける姿が印象的だったといい、「みんなが一つになっていた。感動した」と目を潤ませた。

 「苦しい経験もあったが、野球をしている時は自分らしくいられた」と語り、支えてくれた周囲への感謝を述べた松本投手。「1年でここまで変われた。謙虚に目の前の課題を克服していけば、まだまだ成長できる。目標はメジャーリーグ」と意気込み、球場を後にした。

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