埼玉新聞

 

「助けて!」大きな声で助けを求めて 夏休みを前に水難事故を防ごうと幼稚園で「着衣水泳」 きっかけは園長が川で溺れかけ恐怖を体験したこと 服を着たまま泳ぐのは難しい 実体験して「軽はずみに水のそばで騒がなくなった」という声も

  • 着衣水泳の訓練をする園児たち=4日、さいたま市北区の明和幼稚園

    着衣水泳の訓練をする園児たち=4日、さいたま市北区の明和幼稚園

  • 着衣水泳の訓練をする園児たち=4日、さいたま市北区の明和幼稚園

 子どもの水難事故を防ごうと、スイミングプールが併設されたさいたま市北区の明和幼稚園では、服を着たまま泳ぐ「着衣水泳」の訓練を30年間続けている。川や海に行く機会が増える夏休み前に、服を着て泳ぐことの難しさを感じてもらい、水辺での注意を促すことが目的だ。同園の深井明友園長(62)がかつて川で溺れかけ、恐怖を体験したことが導入のきっかけだったという。

 「助けて!」。4日に行われた着衣水泳の訓練。シャツとズボンを身に着けたままプールに入った園児が、水入りのペットボトルを胸に抱きあおむけで浮かぶと、助けを求める声を上げた。「それじゃあ聞こえないよ。もっと大きい声で!」。先生の呼びかけに応じ、園児たちはさらに大きな声で助けを求めた。泳ぐのは得意という年長の塚田匠さん(6)は「服が重くて、あまり泳げなかった」と述べつつ、「大きな声で『助けて』と言えた」と笑顔を見せた。

 同園では30年ほど前から、川や海に行く機会が増える夏休み前になると、着衣水泳の訓練を実施している。きっかけは、深井園長が大学生の時、ボートで魚釣り中に川に転落したことだ。「長袖、長ズボンに靴を履いていて泳げなかった。落ちたことで気も動転していた」。川岸とボートをつないでいたロープを手繰り寄せ、何とか陸にたどり着くことができたが、「わらにもすがる思い。恐ろしかった」と振り返る。

 園長に就任後、「事故に遭う確率は子どもの方が高いのでは。訓練をしておいた方がいい」と感じ、着衣水泳を指導していた大学教授に相談して導入を決めた。一番の目的は、服を着たまま泳ぐことの難しさを実体験し、水辺での注意力を養うこと。深井園長によると、これまでに同園の園児で水難事故に遭ったという話は聞いておらず、保護者からは「軽はずみに水のそばで騒がなくなった」という声も寄せられているという。

 4日の着衣水泳の訓練では、ガラス越しに保護者たちが園児の様子を見守った。子どもが年長クラスに通う野口真央さん(36)は「言葉よりも体の感覚で教わった方が(着衣水泳の難しさを)実感できる。貴重な機会」と話していた。

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