埼玉新聞

 

メリットは大きいけれど…進まぬ消防広域化 埼玉県の消防本部「計画通り」実現は1ブロックのみ

  • 県内、「消防広域化」進まず

 頻発する災害などへの素早い対応をするため、消防本部を統合し、消火活動や緊急搬送体制を強化する「消防広域化」が県内で進んでいない。県は2008年に県内に36ある消防本部(当時)を7ブロックにする計画を策定したが、計画通りに統合が実現したのは1ブロックのみ。来年度から上尾市、伊奈町で8年間の協議を経て6年ぶり4地域目の広域化が決まったものの、その後の統合は具体化していない。進まない背景には、自治体間の財政面の調整や広域化による業務負担への懸念などがあるとみられる。

■15年で4地域

 消防広域化は人口減少などを踏まえ、消防本部を統合することで、初動体制の強化や現場到着時間の短縮、現場で活動する職員の増強などが可能になる。国は06年に消防組織法を改正し、都道府県に計画の作成を義務付けた。県は08年に県消防広域化推進計画を策定したが、広域化が進まないことから延長を経て、24年4月までに7ブロック化することを目指している。全国的にも低調で、06年に811あった消防本部は21年に724と、約1割の広域化にとどまっている。

 現時点で計画通りに広域化が実現しているのは、第4ブロックの埼玉西部(所沢、飯能、狭山、入間、日高市)のみ。一方、計画の枠組み通りではないが、埼玉東部(加須、久喜、幸手、白岡市、宮代、杉戸町)、草加市と八潮市の2地域が広域化済み。08年当時36あった県内消防本部は上尾市、伊奈町の広域化により23年4月から26になる。しかし県消防課によると、一部地域では119番通報を受ける指令センターの共同運営を進める動きがあるが、消防本部の統合については「これ以上の動きはない」という。

■初動4台が7台に

 23年4月から消防業務を統合する上尾市と伊奈町は、13年から指令センターを共同運営し、翌14年から広域化に向けた協議を開始。8年越しの実現になった。伊奈町が上尾市に業務委託し、両市町の住民計約27万5千人に対し緊急車両45台、職員328人体制になる。

 現在、伊奈町消防本部は職員59人、緊急車両9台体制で、上尾市は職員267人で36台。広域化により、伊奈町は最初に出動する消防車を4台から7台に増やせる。また国の財政支援で8年以内に町内に消防署を一つ増やし、出動から6分半以内に放水を開始できる「走行限界エリア」外の地域をカバー可能になる。また、両市町とも車両更新などの運営財政面で負担軽減が期待できる。

■財政面や理解不足に壁

 両市町の統合に時間がかかった要因の一つに職員の待遇の差がある。伊奈町消防本部によると、職員の給与が上尾市の方が高いため、伊奈町は来年度以降の予算に計上し、広域化前採用の職員の給与を上尾市職員と同水準に引き上げる。来年度以降の運営費は伊奈町が約22%負担で、統合前の運営費より「同じか少し上がるくらい」になるというが、メリットは大きい。

 県消防課は広域化の遅れについて、人材が流れてしまうことや、広域化までの事務作業への懸念が市町村にあることを要因に挙げる。指令センターは約10年で通信設備を更新する必要があり、「更新の時期に広域化すれば更新費の負担を軽減できる」と説明。広域化はあくまで市町村の自主的に行うものであると強調し、「タイミングをみて支援していきたい」と話した。

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