埼玉新聞

 

<新型コロナ>人と人とが絶たれている…今こそ芸術必要 再開待つ県内の劇団、終息見据え新企画も

  • 「臨時休館」の案内が設置されている彩の国さいたま芸術劇場=さいたま市中央区

  • 「公演の延期や中止は、演劇活動の停止ではない」と話す劇団キンダースペース代表の原田一樹さん=川口市内

 新型コロナウイルスの感染拡大で、演劇や音楽、ダンスなどの公演中止が相次いでいる。興行ができなければ収入につながらないという苦悩の中、県内の劇場や劇団の関係者は「今の時代だからこそ舞台芸術が必要」と再開を待ちわびている。

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■鋼太郎さんも嘆く

 故蜷川幸雄さんが芸術監督を務めたことで知られる彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)は臨時休館が続いている。政府がスポーツや文化イベントの自粛を要請したのが2月26日。この頃は同劇場の看板事業である彩の国シェイクスピア・シリーズ「ヘンリー八世」公演の真っ最中だった。阿部寛さん主演、吉田鋼太郎さん演出の史劇は最終日の3月1日までチケットが完売だったが、苦渋の思いで28日から公演を中止、3日間4公演で約3千人分をキャンセルした。

 同劇場と埼玉会館(さいたま市浦和区)の指定管理者である県芸術文化振興財団が新型コロナ感染防止のため中止・延期した主催公演は27(4月17日現在)に上る。公立劇場として県からの指定管理料はあるものの、休館が続く限り、チケット料金、貸し館利用料の収入は途絶えたまま。さらに中止公演の払い戻しも重くのしかかる。

 同劇場では、5月下旬から6月下旬にかけてダンスカンパニー「コンドルズ」など人気公演を予定しており、実施するかどうかの判断が迫られる。同財団の渡辺弘事業部長(67)は「先が見えないことが一番つらい。緊急事態宣言が解除されたとしても、まずは観客の感染症対策を講じる必要があり、すぐ通常に戻るのは難しいだろう。新型コロナの終息を毎日祈るような気持ち」と心境を明かす。

 ただコロナ後を見据え、新しい企画も検討中。蜷川さんが立ち上げた高齢者劇団「さいたまゴールド・シアター」のメンバーらで小さなキャラバンを結成し、さまざまな場所で楽しい演目を演じるアイデアが浮上している。渡辺さんは「芸術の原点は人と人とのコミュニケーション。それが今、絶たれている。だからこそ人々の舞台芸術への思いが強くなっていると思う」と話す。

■何とかなる

 「正直、活動場所の家賃をどうしようかと思っている」と表情を曇らせるのは、川口市西川口に拠点を持つ劇団キンダースペースの女優、瀬田ひろ美さん(61)だ。同劇団は1985年結成、劇団員は約20人。西川口の拠点では、瀬田さんの夫で劇団代表の原田一樹さん(63)作・演出のオリジナル作品やイプセンなどを上演してきた。演劇経験者や未経験者向けのワークショップを年6回程度開催し、参加費を家賃に充てている。本来なら5月に始まる予定だが、開始時期がずれこみ、1回分が中止になる見込み。4月から稽古はストップし、7月の劇団公演もどうなるか分からない。

 だが、原田さんは「こういう危機は今まで何度もあるから、何とかなると思ってる。暗くなってもしょうがない。ギリシア悲劇など紀元前から存在したのが演劇。こんな時代だからこそ芸術的価値を訴えたい」とし、より良い作品をつくるため資料や本を読む"活動"に忙しいという。

 北本市在住の演歌歌手・熊谷ひろみさんもコロナ自粛で2月末からイベントが中止となり、ほとんど収入がない状態。不安を抱えながらも「永遠にこれが続くわけではない。命、健康あっての仕事。でもコロナが終息したら、めちゃくちゃ働こうと思っていますよ」と語った。

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