埼玉新聞

 

建物を丸ごと持ち上げて改修 渋沢栄一ゆかりの「旧黒須銀行」 埼玉・入間 耐震化に向け揚屋工事進む 2026年6月に完了予定

  • 大正時代の黒須銀行本店(入間市博物館提供)

    大正時代の黒須銀行本店(入間市博物館提供)

  • 揚屋工事で基礎から建物が持ち上がっている様子=10日午後、入間市宮前町

    揚屋工事で基礎から建物が持ち上がっている様子=10日午後、入間市宮前町

  • 大正時代の黒須銀行本店(入間市博物館提供)
  • 揚屋工事で基礎から建物が持ち上がっている様子=10日午後、入間市宮前町

 入間市宮前町の市指定文化財「旧黒須銀行」で9日から、建物を丸ごと持ち上げる揚屋工事が始まった。施工できる職人が少ない珍しい伝統技術で、10日に報道陣や関係者に現場の様子が公開された。基礎の耐震化のため、5~6日間かけて約60センチ持ち上げる予定だ。

 揚屋工事は建物が壊れないよう少しずつ持ち上げ、基礎工事などを行う工法。現在の旧黒須銀行の基礎は大谷石製で、耐震性を高めるために鉄筋コンクリートで作り変える。

 縦横をレールで支えて油圧式のジャッキ18個で建物全体を少しずつ持ち上げ、大きさや傾きのさまざまな木材を挟んで平衡を保つ。10日午後の時点では約15センチ上がったという。

 工事を担う川木建設(川越市)の現場担当の加藤悠祐さんは「コストがかかるので、それだけの価値があるかということ。文化財の工事でもこういったこと(揚屋)がされるのはなかなかない」と話す。「建物が上下するので、仮設の足場を組み直したり、手順が普通の改修とは全然違う」と工事の難しさを語った。

 旧黒須銀行は1909年に黒須銀行本店として建設された土蔵造り2階建ての建物。老朽化が進み、96年に郷土民芸館としての役目を終えてからは閉鎖されていた。今回の工事では耐震化のほか、改修を繰り返した姿を建設当時のものに復元する。延べ床面積は236・02平方メートル、事業費は2億9986万円。

 良質なつくりが特徴で、屋根は地元の小谷田瓦が赤い瓦に張り替えられており、現在は白いペンキが塗られている外壁は黒しっくいで仕上げられていた。正面の鉄扉を入ると営業室で、ケヤキ1枚板のカウンター(バンク台)がある。半解体工事では、途切れていたカウンターの痕跡が見つかるなどの発見も報告された。

 工事は昨年10月から始まり、2026年6月に完了する予定。資料展示や貸しスペースを整備し、来年秋の開業を目指す。市博物館の学芸員三浦久美子さんは「歴史が深い建物なので、地域の歴史的建造物と一帯となって、地域のにぎわいとなるような活動ができれば」と期待した。

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