埼玉新聞

 

ボール追えば国籍関係ない 埼玉大学でサッカー大会 参加50人、差別ない社会願う

  • サッカーを楽しむ子どもら

    サッカーを楽しむ子どもら=5月24日午後、さいたま市桜区の埼玉大学

  • 大会の参加者ら

    大会の参加者ら

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 サッカーを通じて差別のない社会の実現を目指し、さいたま市桜区の埼玉大学で5月24日、さまざまな国や地域をルーツに持つ子どもらによるサッカー大会が開催された。大会は同大の学生らも大会運営に携わり、日本や中国、米国、中東民族のクルド人やミャンマーのイスラム教徒少数民族のロヒンギャなどから50人が参加。言語や文化の壁を超えて汗を流した。

 この日は国籍や民族が交じった複数のチームが1試合15分で対戦。試合前は緊張した表情を浮かべる子どももいたが、試合が始まると真剣にボールを追いかけた。年齢にも差があったが、互いに相手を思いやるシーンも見受けられた。

 この日1ゴール1アシストの活躍だったトルコ出身のクルド人男子高校生(15)は「出身の違いはあっても、サッカーは変わらずに楽しい。また参加したい」と目を輝かせた。中国籍の張加凝さん(10)は「仲間が決めたゴールでも自分のことのようにうれしかった」と笑顔を見せ、父の義威さん(43)は「出自の違いで考え方も違うこともあるが、同じ方向を向いて楽しんでいるように見えた。自分と違う文化を知る良い経験になったと思う」と語った。

 大会を主催したのは、サッカーを通じた国際交流を行う団体「Seeds」(さいたま市浦和区)。医師として世界保健機関(WHO)などを経て、国境なき医師団で活動する代表の西野恭平さん(47)が2019年に設立した。

 学生時代に浦和レッズユースに所属するなどサッカーに打ち込んだ経験から、医師として訪れた国外各地でも子どもらとサッカーを楽しんだ。「どこの国に行ってもサッカーは人気。一緒に遊んでいると国籍や言語などが違っても、自分と変わらない同じ人間」と気付き、団体の設立を決めたという。県内で拡大している差別やヘイトは大人がつくり出したものとした上で、「子どもが偏見を持ってしまわないように、種まきの思いでさまざまな人と関わる機会をつくりたい」と意気込む。

 開催に協力した埼玉大学の市橋秀夫副学長(国際・グローバル教育担当)によると、在日外国人の支援活動をしている団体が同大の多文化共生を題材にした講義に参加したことから大会が実現した。

 近年、インターネットや交流サイト(SNS)を中心に特定の在日外国人を中傷する投稿などが目立つ。県内では昨年、排外的な街宣活動を繰り返した人物に対して、さいたま地裁が禁止の仮処分命令を出しており、当事者団体が原告として訴訟を起こしている。市民団体を中心に、県などに対して包括的な差別禁止条例を求める動きもある。

 市橋副学長は「今後は少子化などが進み、日本が多文化社会になることは避けられない」とし、「学生の中には、自分の身近にあるネットの情報だけで印象を決めてしまう人もいる。直接交流して話をすることが大事」と語った。

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