武道館建立で…県有林を全面伐採、見る影ない山容に 「人の手でなければ再生できない」 埼玉・秩父の秩父百年の森理事長、坂本裕三さん/全国植樹祭 森の守りびと(2)
秩父市と小鹿野町にある秩父ミューズパークを主会場に25日に開かれる「第75回全国植樹祭」。66年ぶりの県内開催を前に、県内で森林の保全や育成に取り組む人々を紹介する。
■山林再生、20年も道半ば
渓谷美が映える秩父市中津川の県有林「山吹沢」は、上尾市の県立武道館建立のため、2002年にスギの木を全面伐採し、見る影もない山容に変わった。「人の手によって切り崩した山林は、人の手でなければ再生できない」。NPO秩父百年の森(秩父市上町)理事長の坂本裕三さん(65)は、20年以上続けている森林再生事業「山吹沢の森づくり」を通して、自然に戻す難しさを、身を持って実感している。
NPO組織による山吹沢再生の取り組みは、03年4月からスタートした。当時、百年の森づくりの会(さいたま市)が県と協定を結び、県有林内22ヘクタールで植樹活動を開始。これまでに、ミズナラやイロハモミジ、イタヤカエデ、ブナなど約15種類、2千本以上の苗木を、地元ボーイスカウトの子どもたちや中学、大学生らと共に植えてきた。
秩父百年の森が10年に設立されて以降は、県秩父農林振興センターと「森づくり協定」を結び、坂本さんらが植栽後の樹高調査や、獣害対策のネット設置などの森林保全活動を進めている。
植樹から事業に携わっている坂本さんらメンバーは、4月25日に山吹沢を訪れ、木々の成長を観察した。現地に行くのは22年5月以来。基本的に年10回ほどのペースで現地活動を行っているが、14年の秩父地方の大雪、19年の台風19号、22年9月の中津川地区の土砂崩落などの災害により、活動を断念せざるを得ない時期もあった。
坂本さんは活動当初、「10年後には、伐採前の景色がある程度戻ってくるのではないか」と予測していた。20年以上が経過した現在、「再生は順調といえるが、成長した木が種を付けるのは20~30年ほどかかる。新たに種が芽吹き、本当の自然を取り戻すまでには、まだまだ歳月が必要」と語り、山吹沢一帯を見渡した。
再生構想の過程で、一番の天敵はシカだ。「春先になると、あらゆる新芽を探し回って食べてしまう。シカ柵の補修作業などを定期的に行わなければ、自然のサイクルは簡単に崩れてしまう」。シカ被害が少なかったブナの木の成長は著しく、約2メートルだった苗木の高さは8メートルほどになったが、「森全体としては20年たっても未完成のまま」だ。
秩父ミューズパークを主会場に25日に開催される第75回全国植樹祭を通じて、坂本さんは「苗木を育てて人工林をつくることの大切さと大変さ、木を切った分だけ適材適所に苗を植えることの重要さを多くの人たちに体感してほしい」と願っている。










