埼玉新聞

 

伝統的な択伐守る 「素晴らしい木を残してくれた先人に感謝」 埼玉・飯能の山一木材代表、黒田豊昭さん/全国植樹祭 森の守りびと(1)

  • 今年秋から来年春までに伐採することが決まっている木の状態を確かめる黒田豊昭さん(手前)=飯能市上名栗

    今年秋から来年春までに伐採することが決まっている木の状態を確かめる黒田豊昭さん(手前)=飯能市上名栗

  • 今年秋から来年春までに伐採することが決まっている木の状態を確かめる黒田豊昭さん(手前)=飯能市上名栗

 秩父市と小鹿野町にある秩父ミューズパークを主会場に25日に開かれる「第75回全国植樹祭」。66年ぶりの県内開催を前に、県内で森林の保全や育成に取り組む人々を紹介する。

■「西川材」に育てられ

 飯能市の民謡「西川音頭」には、こんな一節がある。「東吉野(あずまよしの)とその名も高い、飯能名物西川材よ」。県南西部の入間川、高麗川、越辺川流域で育ったスギやヒノキなどは「西川材」と呼ばれ、江戸時代から将軍が暮らす大都市を支える建材として重用された。色つやが良く、年輪も密で節の少ない品質は、歌われているように奈良県のブランド材「吉野杉」にも劣らないという。

 4代にわたって西川材に携わるのが、飯能市の山一木材代表、黒田豊昭さん(72)だ。分家に出た明治期から木材を扱い始め、父菊生さんが林業と製材に専念するようになった。黒田さんは高校卒業後、岐阜県内で3年間修業。帰郷して家業を継いだ。木のなりわい一筋、54年が過ぎた黒田さんは「この地域の人々は先祖代々、何らかの形で山仕事をしてきた」と語る。

 国内では戦後の1950年代から70年ごろにかけて、スギなどの針葉樹を植栽する拡大造林政策を推進。伐採も、一定区域の樹木を全て切り倒す「皆伐(かいばつ)」が広く行われてきた。だが、黒田さんは伝統的な「択伐(たくばつ)」にこだわる。十分に成長し、木材としての価値があるものを選んで切る方法だ。「択伐の方が経費はかかるけれど、悪い木を切っても今は売れない。皆伐すると、その後に植え付けもできなくなる。自分だけの利益を考えてはいけない」と戒める。

 木材需要の増大を受けて造林が行われたものの、国産材の利用は64年の輸入自由化で低迷していく。拡大造林の森は活用に適した時期を迎えているが、担い手が大幅に減少。伐採後に植林し、再び育てるための労働力も足りない。黒田さんは「全てを切るのではなく循環させた方が、山を保全できる」と言う。

 西川材の産地は飯能市のほか日高市、毛呂山町、越生町の里山や中山間地。質が高く評価されているのは、枝打ちや間伐などで手入れが行き届き、木の競争を促すように育ててきたからだ。黒田さんは「近くに集落があるので、朝起きてすぐ山に入れた」と地の利を指摘。従事者も経験を積め、技術が磨かれる。

 寺社や文化財の建造物で用いられる巨木は、全国的に確保が難しくなってきた。そんな状況にあって、江戸時代に植えた樹齢350年ほどの古木がある西川材は、貴重な供給源としての役割も果たす。黒田さんは「素晴らしい木を残してくれた先人に感謝しているし、木が私を育ててくれた。あとは、後継者だけ。まだ育成できていないのが反省点」と継承を誓った。

■県面積の3割が森林

 2016年度現在、県内の森林面積は11万9779ヘクタールで県土全体の約3割となっている。所有形態別で見ると、国有林の10・3%に対して、県営林と市町村有林、私有林などを合わせた民有林が大部分の89・7%。森林のほとんどは、県の西部にある。

 民有林のうち、53%の5万6964ヘクタールが植林で造られた人工林。その約8割が木材として利用可能な樹齢に達している半面、実際に伐採される森林は少なく、再び造林される面積も限られている。

 林業従事者は、1985年の1022人から、2010年には270人まで減少。県が対策を行った結果、15年には300人まで回復した。だが県森づくり課によると、最新の20年データでは再び220人に減ったという。

 県が21~25年度に取り組む施策をまとめた「県農林水産業振興基本計画」では、林業で4本の目標を掲げた。この5年間で、1万2500ヘクタールの森林を整備。林道や作業道といった路網密度は、19年度の1ヘクタール当たり22・8メートルを25年度は同25メートルまで延ばす。

 集約化・団地化する森林面積は、19年度の1万6887ヘクタールから25年度は2万3500ヘクタールに、県産木材の供給量は同期間に年間9万7千立方メートルから11万6千立方メートルに拡大する。

 ただ、担い手の数や国産木材の需要に比べて、人工林は過剰といえる状況だ。そのため県は、針葉樹だけの人工林に広葉樹を導入する針広混交林化も推進している。

ツイート シェア シェア