埼玉新聞

 

<月曜放談>埼玉県人は〇〇でなければ…初代会長・渋沢栄一の精神今も 埼玉県人会会長・岡本圀衞氏寄稿

  • 岡本圀衞氏

 日本のGDP(国内総生産)が世界2位から3位になった時、大きなショックを受けたが、考えてみれば、このような近代国家としての歴史が浅い資源小国が欧米の先進国に伍して、よくも2位・3位の位置を確保しているもの、とあらためて感じ入っている。

 そもそも、国力の指標といわれる日本の人口は世界で11位、国土の面積は61位。資源は僅少。日本は長年にわたり、その勤勉性を武器に最高の努力を続けてきたからこそ、世界トップクラスのGDPを得るに至ったのであろう。その礎をつくったのが、明治の富国強兵策であり、多くの実業家、なかんずく埼玉の偉人渋沢栄一ではないだろうか。渋沢栄一は大河ドラマ「青天を衝(つ)け」で描かれたこともあり、今ではその人物や功績が広く知られている。「論語と算盤」とか、合本主義とか、社会事業家としての側面とか……。そこで、昨年は、県人会でも講演会を開催。多くの事績を深掘りすることができた。

 一方で、渋沢栄一が創業に関わった企業や団体の受け止め方はどうなのかを知りたくなった。たまたま埼玉県では埼玉三偉人を顕彰する企業版ふるさと納税を創設し、募集していることを知り、そうした企業と面会する機会があるとのこと。私も参加させていただき、東急、王子ホールディングス、東京ガス等の経営者方の生の声を聞かせていただいた。

 すると、どの企業でも、社史の最初のページで渋沢栄一を大きく取り上げ、現在も創業者として畏敬の念を抱き、継承しようとしていることがよく伝わってきた。また、若い従業員は渋沢栄一の名前や創業経緯を知らないこともあったが、「青天を衝け」を機に、会社のルーツをあらためて知らしめることができ、会社の健全な発展に活かせそうだと、一様に喜んでいた。

 別の機会にお話を伺った他の団体の方々も同じ。日本商工会議所の三村会頭は、東京商工会議所創設140周年を記念として、初代会頭の渋沢栄一がいかに日本の産業発展を鼓舞してくれたかと、様々な行事で訴えてきたことを熱い口調で語られていた。何しろ一様に“熱い”のである。

 大河ドラマは終了したが、これだけ注目を集めた流れは、また再来年、新一万円札の発行で大きくよみがえるわけであり、まことに喜ばしい。(渋沢栄一の顔をたくさん拝められることに期待している)

 埼玉県人会との関係で言えば、初代会長の渋沢栄一翁、あれだけ国事に奔走し、忙しい人なので、県人会には失礼ながらのっかり・腰かけと思っていたところ、事実は全く相違して、積極的に関与されていたことが記録に残っている。当時の言動を読み解くと、埼玉を思う心は人一倍。郷土愛もさることながら、「埼玉県は江戸時代、小藩、旗本、幕府直轄地が混在。埼玉としてのまとまりをつくりにくい。これからは、埼玉県人が一緒になって発信力を高め、大きな力を発揮すべきだ」と。そのために、「埼玉県人は、知徳・人格を高め、社会の役に立つべきである」と。更には、「埼玉県人は、立派な国際的日本国民でなければならない」と。この精神を根底に、今も県人会は活動し続けている。一人の偉大な埼玉県人として、永遠に心に留めておきたい方である。

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